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言葉の魔法 ページ22

「大ちゃん、名前で呼んで?」


ガチャリ、帰宅した玄関で扉の閉まる音より早くいのちゃんが言った。


「え?…おかえり慧?」

「…ただいま。大ちゃんもおかえり」

「ただいま」


いのちゃんは一瞬、嬉しそうにしたものの、お決まりの挨拶もそこそこに、洗面所へいってしまった。


ああ見えて策士なお姫様は、そう簡単には満足しないらしい、しかしそんなことは俺もわかっている。


「慧〜?何がダメだった?」


戸締り良し!急いで隣に滑り込み、俺もハンドソープを分けてもらう。


手を擦りながら、鏡越しに様子を伺うと、いのちゃんは難しそうな顔。


「どこもダメじゃないけど、キュンが足りない」

「…先生?と、言いますと?」


いのちゃんがうがいの態勢に入ったので、大人しくがらがらペっを見守る。


喉がスッキリしたいのちゃんは鼻に指を添えて言った。


「なんか、言われたから呼んだ感が…もっと自然な流れで呼んで欲しい」

「そう言われても…」


ポジション交代して俺もうがいを済ます。
ようやくなだれ込んだソファは、二人分の疲れを受け止めてギィと鳴いた。


「はぁー、疲れた…」


肩にかかる重みと、グリグリ押し付けられる髪の毛に、「あぁ、甘えられてんな」と、思う。


「今朝、早かったもんね?」

「うん、大ちゃんチャージさせて?」

「ん、俺も」


寄り添って体温を分け合う、ただそれだけでいい。
いのちゃんは小さな幸せを具現化する魔法使いみたいだ。


「いっそ呼び方変えちゃうのは?」

「ん〜それも良いけど、たまに名前で呼ばれるレア感も捨て難いよね」

「わかる」


なんだかんだ言って、そのへんの価値観がいのちゃんと一致しないことはほとんど無いのだ。



それから交代でシャワーを浴びて、寝室に入ると、睡魔に弱いいのちゃんが珍しく俺を待っていた。


「あれ、寝てなかったの?」

「うん。俺、大貴隣に来ないと寝れねぇから」

「よく言うわ!てか、名前」


想像以上の破壊力に、口角が最大限まで上がってしまう。いのちゃんは「キュンとした?」って満足気に笑った。


「じゃあ、俺もこれから不意打ちでたまに慧って呼ぶわ」

「ふふっ、それは楽しみ」


電気を消して、隣に横になる。
暗がりでもいのちゃんが嬉しそうなのがわかって頬が緩んだ。


「おやすみ、慧」

「はっや!大ちゃん絶対やると思った〜」

「ふふ、やっぱバレた?」


いのちゃんと居るとただの日常が鮮やかに色付くから、毎日ぜんぜん飽きません。

終わり ログインすれば
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作者名:ららりる | 作成日時:2020年10月4日 21時

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