もっぱら、君ばかり。（ar×in） (ページ3)

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分け合う味ページ3

「大ちゃんそれ一口ちょうだい」

二人ともずっと観たかった洋画を鑑賞中の休日、登場人物も出揃わない序盤でいのちゃんが言った。

「え？いのちゃん自分のは？」

「もー、大ちゃんってば味変って言葉知らないの？」

ほらアーンって、口を開けて待つ姿はエサを欲しがる雛鳥のよう。

元はと言えば、「映画は絶対これでしょ」といういのちゃんと、「好きなもん食べながら観たいでしょ」という俺の意見が合わなかったから各自で買ったというのに。

いのちゃんはポップコーン、俺はポテトチップス。
飲み物はコーラで一致したから1本で済んだけれども。

いのちゃんとは意外と気が合うようで合わない。

「はーやーくー」

「はー、ほら。あーん…美味しい？」

「うまぁい、大ちゃんありがとうー」

食いしん坊なお姫様は、俺が食べてるのを欲しがるのはしょっちゅう。

だから大きいのを選んだし、ポップコーンだってさりげなくキャラメルを勧めた。

だってこっちも塩なんだから味変になんないと俺が困るし。

「うっわー、今のかっこいいね…って大ちゃん観てる？」

「あ、わり。いのちゃん見てた。」

「…は？意味わかんないー」

案外、今くらいのことで少し頬を染めている。
あーんは何ともない顔してたのにね。

いのちゃんは不意打ちに弱いということを最近覚えた。

「ねぇ、今の奥さんのほうが普通に悪くね？」

「俺もそう思う」

「大ちゃんやっぱわかってるわ」

いのちゃんが夢中なのをいいことに、少しだけ距離を詰めた。

三人は座れるソファなのに、ぎゅうぎゅうに引っ付いて座るのが好きなんだ、俺たちは。

いのちゃんはそんな俺に気付いて頬を擦り寄せてきた。

それが可愛くて、ふわふわの茶髪を指先で掻き混ぜる。
いのちゃんは擽ったそうに身をよじった。

「大ちゃん、俺のポップコーンあげるからポテチシェアしよ」

「ん、いいよ、食べな。」

ほら見た事か。
袋ごと手渡すと、いのちゃんは自分のほうに置いた。

すっかりお気に召したようで。
俺は結局ポップコーンばかり口に運ぶ。
これこれ、ちょうど甘いのが欲しかった。

「ずっと甘いの食べてると塩からいの欲しくなるよねぇ」

バリバリ、音を立てながらいのちゃんは小さくこぼした。
体温すらも分け合いながら、俺たちはじっと映画に見入っていた。

「誰が犯人か予想しようよ」

「せーのね、」

「「帽子の男」」

前言撤回、やっぱりいのちゃんは誰より俺と気が合う存在です。