鶴のお姉さんと紙飛行機の少年 ページ4
Aのいる個室に戻ると彼女は大量の折り紙を側に置いて鶴を折っていた
千羽鶴でも折るのかもしれない
側に座るとAは手を止め、僕に微笑んだ
「あと一週間で機能回復訓練を受けられるみたいだよ」
「あぁ、そうなんだ。聞いてきてくれてありがとう」
「……鶴を折ってるの?」
「うん。蝶屋敷には結構お世話になってるからささやかなお礼をね」
「それが"物事には誠意が必要"ってこと?」
「えぇ、そう」
物事には誠意が必要。普通の人間が普通に覚える常識の一つ。僕と出会ったばかりのAがいつも口にしていた言葉だ
沢山の人間がいて、たった一人の人間の誠意は伝わるものなのかと僕が問いかけると
決まってAは一人に伝われば十分だと笑っていた
「静かだね」
「うん」
部屋には紙の擦れる音が小さく響く。それと同じように木々の擦れる音や何処かの鹿威しの音も聞こえてきて
何だか
「こうも静かだと二人きりの世界みたいで何だか新鮮だと思わない?無一郎くん」
「二人きり」
「…あ、ごめん。こんなおばさんと二人きりは困るわ。無一郎くんには綺麗で優しさを持った芯のある女性と幸せになってもらいたいもの」
「……一枚」
「え?」
「一枚、折り紙貰うよ」
「あ、うん」
僕は口を苦くさせる不快感を少し感じながら気持ちを畳むように紙飛行機を折った
小さな力で飛ばすと部屋の中でくるくると回り、Aの膝に落ちる
「え、凄い。どう折ったらいいの?教えて、教えて」
「いいけど、折り紙少なくなっちゃうよ」
「ふふんっ!実は失敗することを見越して余分に用意してあるんだよ」
「自分の不器用さを理解してたんだね」
Aと一緒に紙飛行機を折る。慣れない手付きで楽しそうに紙を折るAを見ていると不快感などは消え去ってしまって
残ったのは甘やかさと心地よさだけだった
88人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
榮(プロフ) - 茶柱さん» 応援ありがとうございます。鬼滅の刃本編の無一郎くんとは変わっちゃうかも知れないんですけど、綺麗だと言われて凄く嬉しいです! (2019年9月22日 21時) (レス) id: b9cbcbe26c (このIDを非表示/違反報告)
茶柱(プロフ) - 無一郎の感情表現が細やかで綺麗ですね。応援しています! (2019年9月22日 13時) (レス) id: f127cb7f36 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:恊 | 作成日時:2019年9月10日 7時