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「この猫はみんな、その恋人と一緒に飼ってたん?」
「いや、一匹だけ。そこの、端で寝てる黒い猫な。クインて名前」
永瀬が指差した天井まで届きそうなキャットタワーの中段。
眠っているせいで黒い塊に見えるほど、綺麗な漆黒の毛並みだった。
「恋人が出て行ったとき、その子もここを出てん。」
「恋人が連れて行ったってこと?」
「ううん、開いてた窓から逃げて。」
「そうなんや」
「俺、死のうと思った。恋人も、クインもおらんくなって。生きていけへんと思った。」
「うん」
「でも、帰ってきてん。発 情期で、外に出たがってたんはそのせい。
妊 娠して俺んとこ戻ってきた。ちゃんと帰ってきてん」
「うん、」
「俺、クインの子供も育てて、その子供も育てて、それをずっと繰り返して行ったら、いつかクインが死んでも悲しくないと思った。」
「それで、こんなに増えたん?」
「そう。俺が育ててる」
「血が繋がった猫同士で、つがってるってこと?」
「そう。だから、この子らは血が濃いねん、とても。」
「それって。」
「ひとりになりたない。」
永瀬はいつのまにか蕎麦を食べ終わっていて、割り箸を持ったまま口を拭った。
まるで涙を拭うような仕草だった。
涙は流していなくとも、永瀬は今泣いているんだと思った。
「恋人が帰ってくるまで、猫は増やし続ける。クインには長生きしてもらいたいけど、ずっとは生きてられへん。それは分かってるから。」
「でも、恋人が帰ってこんかったらどうするん、」
「そしたら、死ぬけど、さっきも言うたやん。俺が死んだ後に帰ってくるかもしれんから、死なん。分からん。」
「そっか。永瀬、……そっか。 」
永瀬も圧倒的なものの渦中にいる。
折られた鼻を宝物のように撫でる栗木さんも、きっと「平野紫耀」も。
そして、私も。
抗えないまま、生きていくしかないのだ。
猫たちは、部屋のあちこちで、すぅすぅと心地好さそうな寝息を立てている。
永瀬が育てた、たくさんの血が繫がった猫たち。
永瀬は、梅干しは嫌いだからと言って、私におにぎりをくれた。
一口食べて、吐いた。
私には猫の匂いがきつ過ぎたのだ。
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ふてぃか(プロフ) - 忙しいと思いますが更新待ってます ! (2019年8月16日 17時) (レス) id: 6381a07ad2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:琉叶 | 作成日時:2019年3月24日 1時