恋を刻んだ僕たちは、〈Sho,Hirano・Ren,Nagase〉 (ページ24)

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「Aさんに会う前、あの紫陽花の絵見たときから、俺は、たぶん、この絵書いた人のこと、好きになるやろうなって思ってた」

自分の声でなにも聞こえなくなるほど、私は泣いて、泣いて、泣き続けた。

「会って、あの人より好きになれたら。そしたら、もうこんなしんどいの、やめに出来るんちゃうかなって、思ってた。

……けど、無理なんよ

もうどうしたらいいんか、自分でも分からへん。催眠術、かかったみたいに、自分でも…コントロールできひん。

このままやったら…俺、あの人のこと壊すんちゃうかな、て恐くて、離れなあかんのに。

けど離れるいうより、あの人とは剥がす、剥がされる感じなんよ、剥がされたら、俺もう…、俺が、壊れるねん、

あの人のこと、俺は、芝居やなくて、ほんまに、ほんまに、好きで、たまらんねん… 」

私は果敢にも彼の腕を折ろうとした。

そのたびに彼の腕はぎゅう、と音を立ててしなったが、決して折れることはなかった。

代わりに私の手が折れそうになり、痛みで涙が溢れた。

数日の間、隣で寝ていても、何度繋がったとしても、私が彼の恋人になったという感覚は全くなかった。

それは、出会ったときから。

始まりから終わりまで、彼はいつだって誰かのものだったからだ。

いつか彼が還ってしまうことの恐怖から、私は絵が書けなくなっていたのだ。

私はその事実にひどく納得し、やっと笑った。

彼と居て初めて、緊張と恐怖から逃れた瞬間だった。

彼が去る時、私は泣かなかった。

彼が去った後も、泣かなかった。

彼は、「恋人」の元へ帰った。

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