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その日、「平野紫耀」は初めて私の家に来た。
やっぱり黒い服を着ていて、髪は日光を集めたみたいにさらさらと輝いていた。
色が薄くついたサングラスを、初めて会った時と同じように胸元にさしている。
「絵の具のにおい、するね」と彼が言った時、その困ったような、はにかんだ笑みを見た時、私は泣きそうになってしまった。
「これ、新しい絵?」
「うん、」
画廊に出すはずだったあのライオンの絵は、結局彼に見せた。
絵の具が鼻につきそうなくらい至近距離で絵を凝視する「平野紫耀」の視線。
いつか私が彼のことを「ライオンみたいや」と言ったことを、覚えているだろうか。
それを聞きたかったが、どうしても「これは平野さんがモデルです」という結論に行き着くのが見えて、聞けなかった。
軽く1時間は絵を見つめてから、「平野紫耀」は不意に視線をこちらに向けた。
「やっぱり、俺Aさんの絵、好き」
そう言われたとき、体がしゅるしゅると音をたてて溶けていった。
溶けた脳で、彼に触れたいと思った。
Tシャツを着ているだけでも分かる厚い胸板や、太い首筋や、さらさらと光る柔らかそうな髪に。
その衝動を抑えながら、絞り出すように声を出す。
なぜかじわじわと涙が浮かんだ。
「さ、っきね、」
「うん」
「電車、乗ってたんやけど、」
「うん、」
「事故、あって」
「じこ?」
「うん。人身事故、ひとつ前の駅で。」
「そうなんや、知らんかった」
「ああいう時、事故が起こったってことは知らされるけど、事故した人がどうなったか、どんな人かは分からへんやん」
「ああ…、そうやね」
「誰かも分からへんし、無事かどうかも分からへん。もしかしたら、自分の知ってる人かもしれへんのに、みんな次の電車とか行き方、探すやんか」
「あぁ…うん」
「それはぜんぜん、いいんやけど、急に…怖くなって、平野さんが、」
「え?俺が?」
「もし、事故にあったのが平野さんやったらどうようって、怖くて」
「ああ…それであんとき、怯えた声してたんやね」
子供をあやすような優しく甘い声を出す彼に、縋り付きそうだった。
こらえきれなかった涙が、一本筋になって頬に刻まれる。
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ふてぃか(プロフ) - 忙しいと思いますが更新待ってます ! (2019年8月16日 17時) (レス) id: 6381a07ad2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:琉叶 | 作成日時:2019年3月24日 1時