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それから、わたしは「平野紫耀」とたびたび会った。
電話をすれば、どんな時間でも「平野紫耀」は必ず出てくれた。
彼から電話がかかってくることはなかったが、会いたいと言えば夜中でも会ってくれる彼に、「恋人」の影はないように見えた。
私は、永瀬の言う「恋人」なんて、本当はいないんじゃないかと希望的な考えを何度も思い浮かべた。
永瀬が知らないだけで、もう別れているんじゃないかとか、永瀬の勘違いじゃないか、とか。
しかしその度に、そんなはずはないと自分の甘さを恥じて考えを打ち消した。
「平野紫耀」とは大概、夜中に会って、公園で話をした。
どこかの店に入ったり、ましてやホテルに行くなんてことはなく、私たちはひたすらにいつまでもいつまでも、話をした。
「平野紫耀」のする話はいつも奇想天外で、私はいつも驚きっぱなしだった。
彼の話すスタートもゴールも分からないたくさんの話に、爆笑したり、目を剥いたりと忙しかった。
「Aさん、催眠術ってかかったことある?」
「催眠術?ない。平野さんは、あるん?」
「うん。…てか、紫耀でいいよ?また癖でてるで」
「ごめん、くせかな」
本当は癖なんかじゃなかった。
永瀬に始まり、私が他の友人をさん付けで呼ぶことはない。
しかし、気安く、永瀬のように「紫耀」などと呼び捨てることは、どうしても出来なかった。なにかの始まりを期待させるようで怖かった。
あるいは、永瀬のように彼の無二の親友という立ち位置になることを、どこかで嫌悪していたのかもしれない。
「ごめん、ほんで…催眠術が?」
「あぁ…あれ、俺前に何回かかかったことあって。」
「うそ?どんなやつ」
「手、こうやったかな、こうやったかな、どっちか忘れたけど、」
そう言って、「平野紫耀」はそのごつごつとした手のひらを祈りの形にしたり、OKサインにしたり、と動かして見せてくれた。
ぼーっとそこに熱く視線が溜まる。
「うん。」
「離れへんくなりますよ、って、言われて。」
「うん、」
「ほんまに離れへんくなって」
「うそ?ほんまにかかるん、あれは」
「かかるかかる。なんか、力の入れ方を忘れるっていうか 」
「ほんま?」
ぽつりぽつりと、脳に浮かんだ言葉を口にする彼の話に
「そうなんや」と「ほんま?」をだけをただひたすら繰り返す私を、彼は決して笑わなかった。
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ふてぃか(プロフ) - 忙しいと思いますが更新待ってます ! (2019年8月16日 17時) (レス) id: 6381a07ad2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:琉叶 | 作成日時:2019年3月24日 1時