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授業に出てみたは良いものの、結局３限で抜けた。エアコンが効きすぎた空気の悪い教室は息がし辛かった。というのは、言い訳なのかもしれない。
屋上に出れる手前の階段で、仁王が死んだように寝ていた。昨日、授業に出ると言っていたのに、と思いながらも、何だか嬉しかった。
「仁王」
前髪を可愛らしいピン留めでとめた彼の肩を叩くと、ナイルブルーの瞳が私を捉えた。額を伝う汗をハンカチで拭ってやると、猫のようにそれに頭をすり寄せた。
「こんなところで寝たら死ぬよ」
「おまんが来たから大丈夫じゃ」
「来なかったら」
「来ると思うとった」
ねっとりと湿気を含んだ空気が私たちを包んでいる。これ以上彼に何を言っても無駄だと思い、自分も彼の横に腰掛けた。
「屋上に出ないでいいのか？」
さして興味はないようだった。仁王はこちらを見ていなかったが、小さく頷いて返事をした。返事が見えていたのかはわからなかった。彼は小さな声で「あっつ」と呟いた後、また目を瞑ってしまった。
チャイムが鳴って、少し遠くから叫ぶ男子の声と煩い足音が聞こえてきた。なにがそんなに怖いのか、楽しいのか、理解ができなかった。また、今すぐにでも世界が終わってしまえば良いのにと思った。
「………、泣いとるのか？」
「え？」
いつの間にか起きていた仁王が、汗の伝う私の頬を手の甲で撫でた。汗を涙と勘違いしたのだろう、泣いてないと否定すれば、何故か安心したように彼は笑った。綺麗だった。
「保健室行くか」
「先生いるんじゃない？」
「いや、今の時間はだいたいいない」
「鍵は？」
私の問いかけに、仁王はポケットから１つの鍵を取り出して見せびらかした。合鍵か。
数歩先を歩く彼に続いて階段を降りた。彼のしっぽ髪が、ふわりと揺れた。まるで機嫌の良い猫のしっぽのようだった。
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作者名：紗昧 | 作成日時：2020年6月8日 22時
