奇襲作戦『斜陽』五 ページ24
廃れた街並。
戦前と戦後の栄枯盛衰が混在した風景に、何処か肺を握り潰されている様な不可思議な感覚に苛まれ無意識の内に胸許の服を掴む。
「はあ、疲れた...」
そんな景色を見渡していれば背後から聞こえる聲。
治へ大口を叩き、困惑の色を浮かべていた司書様に目配せのみで机上に置かれていた『斜陽』に飛び込んで了ったが、彼女には悪い事をした。とは思うがタイミング良く潜書の手配をしてくれた事に関しては感謝しなければ。
「素晴らしかったですよ、熱い台詞を頂きましたね。ワシ目頭が熱くなりましたわ」
先程から聲だけを私に届けてくる彼等を振り返れば、咋に疲労困憊の佐藤春夫先生と其の様子に相変わらず掴み所無い態度を見せる作之助。
何やら佐藤先生が治に説教だか説得だかを熱弁したらしいが、正直如何でも構わない為其処は掘り返さないでおく。
「いや、俺だけじゃ正直無理だった...。花染、助かったよ。礼を言う」
「.....いえ、佐藤先生の為にした訳では無いので」
言って後悔した。
今の口調と言葉選びは初対面の人間には不適切だと、流石に理解出来る。
然し、同様に初対面である筈の佐藤先生が私の名を出しながら謝礼と共に頭を下げるものだから、生じた吃驚が釣れない態度に変換されて了った。
だのに、彼は私のそんな無礼を気にした様子も無く「そうか。でも礼は受け取ってくれ」と柔らかい笑を向けてくる。
出来た人間、とは彼の様な人種を言うのかも知れない。
「いやぁ、それにしてもAちゃんが潜書するなんて思わんかったわ。豪く積極的やね?」
人知れず佐藤先生の友好的さに感動していれば失礼にも的確尤もな科白。外套付頭巾の白い柔毛を揺らし乍ら衣囊に両手を忍ばせ声の主に視線を移し、佐藤先生へ向けた其とは亦違う色を乗せる。
「私だってのんびり過ごしたかったけど、ネコが煩かったから。それに...治が落ち込んでる時に引っ張り上げるのは私の仕事でしょう」
緩り首傾げ当たり前だと零すも、視界を占める彼は苦笑をひとつ。
「Aちゃん、あんまり気負うと壊れて了うで...?」
「作之助には云われたくない」
仮面を取替えながら。其の場其の相手に合わせた仮面と口調、性格を貼り付けて生きてきた。そうして蝶の様にひらりひらりと世間を気紛れに舞っては、空木の様にひっそり暮らしてきた。
この世界は舞台だ。
人間は皆演者であり、観客である。
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巫子(プロフ) - な、何とも素敵な小説……!色々細かく書かれていて凄いと思います。更新待ってます! (2018年3月3日 7時) (レス) id: c9541627c7 (このIDを非表示/違反報告)
雪兎。(プロフ) - 三毛猫さん» お褒めの言葉ありがとうございます!細々とではありますが、緩く綴っていく所存ですので気長にお付き合い頂けると幸いです。 (2017年11月18日 20時) (レス) id: 3bc750f878 (このIDを非表示/違反報告)
三毛猫 - 語弊力がすごい…!更新頑張ってください! (2017年11月18日 16時) (レス) id: fa582e3f2e (このIDを非表示/違反報告)
雪兎。(プロフ) - 猫亮さん» 猫亮様:感想下さりありがとうございます!そう言って頂けるととても嬉しいです..!励みにさせて頂きます。御恥ずかしながら全くの創作物でして、意味が伝わりにくい場が多々あるかと思いますが、その際は御遠慮なく御指摘下さい...。 (2017年11月18日 10時) (レス) id: 3bc750f878 (このIDを非表示/違反報告)
猫亮 - 面白いです!文章も粋ですし、読んでいて引き込まれます。花染先生の詩や遺書等は何か参考になされたのですか?続き、楽しみにしています! (2017年11月15日 2時) (レス) id: 33b0ed1287 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2017年11月2日 4時