ろの段-三 ページ18
運ばれて来た大福と瓶詰めの苺ジャム。
白い薄化粧を纏った糖分の塊が紅玉色の糖蜜に塗れて行く様を横目に見ては、此奴の味覚は兎も角食物摂取風景は正に視覚の暴力だと心中にて溜息ひとつ。
苺大福が餅と餡子に包まれた苺、ならば此奴が作成さている謎の食べ物は苺ジャムに覆われた餅と餡子。
海苔の佃煮入り握り飯か、海苔を巻いた握り飯かの違いだと思えば殆ど同じもの...ではある。
その下手物染みた和洋混同創作物を頬張る弟子擬きを何処か安堵と共に見遣りつつ、手酌で葡萄酒を注いでは傾けていく。
「咲く為に芽吹く定が花ならば、散る為に生きねば成るまいと。人ノ途は誰が為に。孤独を背負うが常なりて、我が途見ゆるは枯草許りか。」
葡萄酒が喉を撫でて行く感覚を覚えながら落ちて行く其とは逆に零れた科白。
「.....止して下さい。気の迷いから生れた駄作です」
「良いじゃねえか、俺の為に動いた筆だろ」
花染A著『泡沫』
1937年に世間に放り出された其は、娯楽が規制された戦時中から荒んだ戦後を生き抜いた芸妓と、彼女を取り巻く背風を描いた作品。
贔屓の客や友人、兄までもが軍場で命を落としていく最中、背を見送り身動ぎ一つ失った彼等を出迎える女の喪失と孤独を描いた其は、当然だが俺が此図書館に来てから読んだもの。
「自惚れないで下さい。私が感傷に浸るなんて、らしくない事為る訳無いでしょう」
苺ジャム塗れの大福を二つ胃袋に収めたAは呆れを混じらせるも、稀に浮かべる拒絶的な微笑は無い。
「そうかよ。折角人が褒めて遣ろうとしてんのに、相変わらず可愛くねえな」
「私を褒める暇があるなら、先立った自分を悔やんで下さい」
此奴が軽口叩くのは極々数人だと知っているからこそ。他人を拒絶する社交的な笑顔が無いからこそ。俺が此奴にとって気が置けない存在なんだと判って了うからこそ。
「へいへい、そうかよ」
人見知りを誤魔化す為に出て了う悪態と暴言は形を潜め、苦笑すら浮かぶ。此奴は知らないだろうが、俺の方が余程人付き合いが下手だったりする。まあ言ってはやらないが。
「愛するものが死んだ時には、自害しなけあなりません」
「.....おい、止めろ莫迦」
朔太郎の奴に見られたら『病気は治ったのか』と言われちまいそうだ。
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巫子(プロフ) - な、何とも素敵な小説……！色々細かく書かれていて凄いと思います。更新待ってます！ (2018年3月3日 7時) (
レス) id: c9541627c7 (このIDを非表示/違反報告)
雪兎。(プロフ) - 三毛猫さん» お褒めの言葉ありがとうございます！細々とではありますが、緩く綴っていく所存ですので気長にお付き合い頂けると幸いです。 (2017年11月18日 20時) (レス) id: 3bc750f878 (このIDを非表示/違反報告)
三毛猫 - 語弊力がすごい…！更新頑張ってください！ (2017年11月18日 16時) (レス) id: fa582e3f2e (このIDを非表示/違反報告)
雪兎。(プロフ) - 猫亮さん» 猫亮様：感想下さりありがとうございます！そう言って頂けるととても嬉しいです..！励みにさせて頂きます。御恥ずかしながら全くの創作物でして、意味が伝わりにくい場が多々あるかと思いますが、その際は御遠慮なく御指摘下さい...。 (2017年11月18日 10時) (レス) id: 3bc750f878 (このIDを非表示/違反報告)
猫亮 - 面白いです！文章も粋ですし、読んでいて引き込まれます。花染先生の詩や遺書等は何か参考になされたのですか？続き、楽しみにしています！ (2017年11月15日 2時) (レス) id: 33b0ed1287 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2017年11月2日 4時
