特定書-一 ページ14
月夜を下地に、桜が歌い蝶が舞う。
「炳五達が人助け、ねえ...」
人助けっていうより本助けかな、と笑い掛ければ幹許に腰を下ろし腕組みした儘だらし無く巨木へ凭れる彼が呆れた様に此方を見上げる。
「おい、他の奴等の前で炳五なんて呼ぶんじゃねえぞ」
「分かってるよ、安吾先生」
悪戯に笑を零し巫山戯た科白を返すも、反論する訳でも無く溜息と共に下へ戻る視線。そうなれば彼の頭頂を見下ろすだけなのだが、炳五の事だ。居眠りするかの様に双眸を閉ざして了っているのだろう。
「それで？その錬金術師様からは、花染Aを連れて帰って来い...とでも宿題出されたの？」
私が命を散らしてから数十年が経過している事、歴史的文献と変貌を遂げた文学書が何者かの手によって黒く穢れていく怪奇現象が生じている事、完全に穢れて了えば人々の記憶から文学書の存在が失われる事。
そして、其の何者かに対抗する為に文学書に仕舞われた著者の魂の欠片を不可思議な錬金術師の御力によって呼出し、輪廻の輪から外れ転生させられる事。
其処迄聞かされれば莫迦でも分かる。
私は文学書を救う野蛮な争いに参加させられる為に、人間とは言えない幽霊の様な存在にさせられようとしているらしい。
そして幸か不幸か迎えに来たのが、私が見捨てて置いて来た友人。
「まあ、そんなとこだが...アンタが厭だってんなら此処に居りゃあ善い」
「....」
そんな心算無い癖に、なんて言ってやる筈だった。
「私が厭だって言ったら...今度は炳五が私を、置いて行けるね...」
なのに、開いた口から飛び出したのは弱々しくも不安定な言葉。明るく巫山戯た適当人間の仮面を被っていた筈なのに。
貴方と二人で居ると卵の殻より脆く割れて了う。
「A」
「う、ぁ.....ちょっと待って...。違う、こんなの私じゃない...ごめん今の無し.....」
下から呼ばれた名前に、逃げる様に双眸を閉ざしぶんぶん首を振り乍ら制止を掛ける。
「違う...違う違う、私は炳五に置いて行かれたい訳じゃない、けど...。また誰かを失うのが怖い、から...誰にも会いたくない.....それに！また炳五を...皆を、見捨てるかも知れない...」
また友人達と再会して。
他の先生達と出逢って。
それで、また別れが来る...？
そうすれば、また耐えられずに誰かを遺して死を選ぶ？
「行かないで...。でも、誰にも会いたくない.....」
不安定極まりない精神は、私の眸から泪を落とさせる。
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巫子(プロフ) - な、何とも素敵な小説……！色々細かく書かれていて凄いと思います。更新待ってます！ (2018年3月3日 7時) (
レス) id: c9541627c7 (このIDを非表示/違反報告)
雪兎。(プロフ) - 三毛猫さん» お褒めの言葉ありがとうございます！細々とではありますが、緩く綴っていく所存ですので気長にお付き合い頂けると幸いです。 (2017年11月18日 20時) (レス) id: 3bc750f878 (このIDを非表示/違反報告)
三毛猫 - 語弊力がすごい…！更新頑張ってください！ (2017年11月18日 16時) (レス) id: fa582e3f2e (このIDを非表示/違反報告)
雪兎。(プロフ) - 猫亮さん» 猫亮様：感想下さりありがとうございます！そう言って頂けるととても嬉しいです..！励みにさせて頂きます。御恥ずかしながら全くの創作物でして、意味が伝わりにくい場が多々あるかと思いますが、その際は御遠慮なく御指摘下さい...。 (2017年11月18日 10時) (レス) id: 3bc750f878 (このIDを非表示/違反報告)
猫亮 - 面白いです！文章も粋ですし、読んでいて引き込まれます。花染先生の詩や遺書等は何か参考になされたのですか？続き、楽しみにしています！ (2017年11月15日 2時) (レス) id: 33b0ed1287 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2017年11月2日 4時
