好奇心旺盛科学少女 (ページ9)

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9　若き科学者の懸念ページ9

「……キャンティが二人いる」

「「いえーい♪」」

「ノリノリね、キャンティ」

「正直ここまで似てると楽しくてしょうがない」

傍目から見たら色違いのキャンティがキャンティと抱き合っているというこの絵面である。中身が研究癖のAである前提がなければ組織内でも二度見からの凝視が勃発することだろう。二度見は前提があってもする。

キャンティは楽しげに笑いながらAの両頬を挟み、むにむにしながら眺める。彼女は彼女でやはりされるまま、さしずめキャンティが姉でAが妹だろうか、やはり元来の性格の差は姿が同じでも出てくるものだ。

「いやー、それにしてもあんたの研究癖ってほんと化け物レベルだよねえ。あたしに化けられるとか、マジ突き詰めすぎ。」

「化け物じゃないよう。だってキャンティさんの細胞を複製して元の細胞をそう変える様に変異過程を固定しただけ、」

「ははっ、何言ってんだかわかんねー」

「キャンティさん理解する気すらないでしょ」

「あたしは射撃の腕を買われてここにいるんだ、そういうのは専門外」

「知ってるけどー」

上記の会話中もずーっとキャンティはむにむにしていた。Aはむにむにされていた。だもので舌が回りきらずに難しいことを言っているのに上手く発音できずに妙な背伸びの仕方をしている子供のようなトーンになった。言いたいことの五分の二ぐらいは伝わっているだろうか。

ジンとベルモットは微妙そうな顔をしているし、コルンやウォッカは困惑げ。スコッチはどこか楽しげでライは興味津々に、バーボンは彼らしく引いていた。各々リアクションが露骨である。

シェリーは、複雑そうにAを眺めていた。何かを気に掛けるような、何かを不安に思うような、そんな表情。シェリーは好奇心の強い彼女の性質をよく理解していた。出し抜かれることは往々にしてあったけれど、それでも組織の中の誰よりも、把握していると自負している。

―――シェリーは不安だった。物事を突き詰めて解明するのが好きな彼女は、或いは如何にすれば“キャンティ”という人物に成ることが出来るのかを、研究し始めるのではないのか、と。そうして。彼女の彼女らしさが、なくなってしまったら。

シェリーはAが好きだ。朗らかながら好奇心が強くほとんど自制しようとしない彼女をまるで妹のように扱い、窘め、宥め、時に咎めてきた。行き過ぎれば彼女という存在が変異してしまうと…そんな懸念があったから―――。