7 好きですよ、間違いなく。 ページ7
ぴこぴこふよふよと自由自在に耳と尻尾を操るAでジンが遊ぶこと十数分。元より待ち合わせでもしていたのか、ジンを呼びながら駆けてきたウォッカがぎょっとして彼女に目を向ける。
彼女はウォッカの姿を視界に捉えるとふにゃりと笑みを浮かべ、本日は猫の尻尾をふりふりと振った。サングラスの奥でどんな表情をしているのか確認できないのが残念でならない。
「こ…今度は猫の耳が生えていやがる…」
「お疲れ様です、ウォッカさん。今日もジンさんのサポートですか？」
「あ、ああ…なんだってお前はいつもそんな素っ頓狂な形をしてんだ」
「やですよう、いつもじゃないですいつもじゃ。ごくたまーには普通の姿のままですよ」
「いつも変な形になってる自覚はあるんじゃねえか」
「ある程度完成してきちゃうと見目に影響が出なくなるので目立たないんですよね…」
みんなが驚くとこ楽しいのに、と小さく呟いた彼女に、聞き捨てならんと耳を触っていたジンがミッと耳を引っ張る。そうするとびゃっと尻尾が飛び上がりAが「にぎゃあっ？！」と猫染みた悲鳴を上げた。
「ジンさん痛い、痛いですジンさん！」
「てめえの化け物染みた研究のせいで俺達がどれだけ振り回されていると思っていやがる」
「ジンさんは大体振り回されてくれないじゃないですか！ぎにゃあぁっ！」
「あ、兄貴…その辺に。耳が聞こえなくなっちまったらまずい。」
「………チッ」
ジンの宥め役はいつもウォッカである。そして手を緩めたジンからすり抜けてAがウォッカの後ろに隠れるのもいつものことだ。ウォッカの胃痛待ったなしである。胃薬さえ彼女特製なのだから如何ともし難いところだが。
すりすりと痛いところを擦るように耳に触れているAを眺め、ジンは今度は尻尾に触れる。彼という人は存外好奇心が強いのか、それとも単なる暇潰しなのか。当人がそれを口にしない為、疑問は大体疑問のままで終わるのだ。
痛いことをされたからウォッカの後ろに逃げたというのに、彼女は彼女で尻尾に触れられても逃げはしない。やはり尻尾に触れる様を眺めながら、その手にじゃれつくように尻尾を動かすのだ。
「…なんだかんだ、Aは兄貴のことが好きだよなあ」
「うん？うん、大好きだよ。ジンさんは意地悪だけど、そればかりの人じゃないもの」
「………」
ジンという人間が何を考えて行動を起こすのか、それは組織の仲間でも分かりにくい。
だが、それは彼女には通用しないようだ。
8 その中に宿るものは変化せず。→←6 冷徹男にも好きなものはある。
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