序1 ページ5
「ふぁ、ああああ」
「あら。起きたのね」
「かわいい、かわいい子。はやく大きくなぁれ」
Aは、目を覚ました。はずだった。そう、はずだと思うのには理由があった。目の前がぼんやりとしか見えないからだ。何度瞬きをしても変わることはなくぼんやりと何か、いや誰かが自分に話しかけ、笑っていることしかわからなかった。
「あーむ。あむ」
「たべたらだめよ」
「ぶー」
しばらくその視界になれてくるとわかってきたことがあった。自分が赤ちゃんになっていること。周りのものは全て大きくかつ、驚きに溢れていた。ぼんやりとした視界が急に近いものに変わる驚愕。唐突に聞こえる声。
そして、いつしか誕生日が過ぎ、視界も思考もクリアなっていった頃、どうすれば元の自分のいた場所に戻れるのか考えはしたが、3才、４才を過ぎた頃には諦めていた。世界の修正力なのか、良くわからないが、自分に無償の愛を与えてくれる人たちがいるこの世界を精一杯生きようと思ったし、もうひとつ、元の場所の記憶が曖昧になっていたからだ。
それはそれは、幼児に戸惑いはあったが、それよりも驚くべきことがAにはあった。 今まで生きてきた世界とは色々違うことだった。
まず、ここは世界総人口の８割が何らかの特異体質…個性を持って生まれてきている。その個性を使った様々な犯罪も存在するためそれを抑止したり、解決したりするヒーローというまさにマンガや夢のような職業がある。
一昔前には個性婚とよばれる個性のみを注視し、より強い個性を産み出すために行っていた掛け合わせのようなものもあったらしい。今は、道徳的にもよくないと廃止傾向にある。
ちなみにAにも狐の個性というとても珍しい個性が宿っていた。
そんなこの世に生を受けてから５年もの月日がたっていた。
「おかあさん」
「来ちゃダメ！！」
買い物に出掛けたある日、離ればなれになっていた母をやっと見つけ、駆け寄ろうと走り出した。いつもみたいに両手を広げて微笑んでくれる。しかし、母は、怒ったように眉間にシワを寄せてAに逃げろと叫んだ。
そこで、はじめて、周囲がおかしいことに気がついた。大人がいない。子どもしかいない。
急に現れた黒い影に驚いたAは、いつもは隠している個性が出てきており警戒しているようにピンっと立った耳やふさふさの尻尾がそこにはあった。
「やっと見つけた。」
「え？」
続→
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：唯星 | 作成日時：2017年12月20日 21時
