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蝉の鳴き声がうるさいくらいに響く夏のある日に私はその人と会った。
ミーン、ミーン……───
緑が溢れるどころか溢れすぎている田舎町の山の奥の奥。階段を何段も昇った先に人目を避けるかのように建てられた日本屋敷に私は来ていた。
事の始まりは借りている家の改装工事の実施を先日大家さんから突然告げられ、終了するまでの間家に入れず、路頭に迷っていたところ、ふと郵便ポストに住み込みのバイトを募集しているチラシが届いており、藁にも縋る思いで電話をしてみたところ『直ぐに来て欲しい』という返答があった為、遠い見知らぬ田舎町まで足を運んでいた。
終わりがないのでは無いかと錯覚してしまうくらい長い階段を昇り終えて、汗を拭き一息着く。
「あ゛っつ〜、てか蝉うるさい」
キャリーケースに軽く腰掛けながら、目の前にそびえ立つ日本屋敷を見る。周りに木々が生い茂っているためか、日の光が差さないこの場所は風が吹く度に涼しいのだが、薄暗く、正直不気味だ。
「……行くか」
腕に巻いてある時計を見ると、そろそろ約束の時間だったことに気が付いてキャリーケースから降りて屋敷の扉に手をかけて横に開く。
「こんにちは〜！！住み込みのアルバイトに来ました！！」
屋敷の中は昼間だというのに電気一つすらついておらず、暗く、人の気配を感じさせなかった。本当に雇い主はいるのかと不安になりもう一度声を張る。
「すいませんー！！どなたかいらっしゃいませんか！！」
「いるよ」
「うっっっわ！！」
背後から突然声を掛けられて、思わず悲鳴に近い声をあげる。声をした方を振り向くとそこには浅縹色をした浴衣を着た黒い髪の精悍な顔立ちをした男性が立っていた。
、
「あぁ、ごめんね、びっくりしたよね」
「い、いえ…」
突然背後に立たれたことも驚きだが、こんな山奥の屋敷に私よりも少しくらい年上に見える人が住んでいたことにさらに驚いた。てっきり、世捨て人の高齢者みたいな人が住んでいると思っていたのだ。
「遠くから来て疲れたよね、さぁ入って」
男性は私の横を通り過ぎて玄関に入り、下駄を脱ぐ。
「お、お邪魔します」
「うん」
私もそれに倣って靴を脱いで玄関に上がると、男性は満足げに小さく笑った。
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渦巻 - コメント失礼します。とても良い作品でした。この作品をつくって下さってありがとうございます！私とても幸せ者ですね…！ (2020年9月10日 22時) (
レス) id: acd4260d4c (このIDを非表示/違反報告)
鰻(プロフ) - 枯渇さん» 感想ありがとうございます。そう言っていただけると、書いてよかったなぁ、と思えます。 (2020年8月18日 15時) (レス) id: b0dd64a6e1 (このIDを非表示/違反報告)
枯渇(プロフ) - 突然失礼します。個人的にとても良かったです。尊さにより倒れさせていただきました。ありがとうございました。 (2020年8月17日 19時) (レス) id: cb6a865d2d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鰻 | 作成日時：2020年8月13日 7時
