09.コトバ・シグサ・アイ ページ10
.
.
車が横を通り過ぎて、微かに風が頬に当たった。
.
.
「あ、あの……」
翔「…」
.
.
さっきまで遠くにいた櫻井さんが、私のすぐ目の前に来ていて私を見下ろしている。
こうして見ると、スタイルがいい素敵な男の人。きっと並んでるだけで羨望の眼差しを向けられるんだろう。
でも。
.
現実に、そんな絵に描いたような「完璧な人」なんていないんだと思い知る。
.
.
「…今の。」
翔「………」
「い、今の女の人との会話って」
翔「あーーーー…見てたの。聞いてたの。」
「は……はい」
翔「なんだチョロそうだったのにメンドクセェ女になっちまったよ、予定外」
「………は？」
.
.
チッ、と舌打ちをしてから王子様はどこへやら。
急に顔を、表情を豹変させて真顔の冷たさ。どこからか煙草を取り出してくわえると
路上禁煙だったか、ってまたチッて舌打ちして煙草をどこかへしまう。
.
足を揺らして、どうすっかなぁって呟くこの人は
.
.
「ほ…ほんとに櫻井さんですか？」
翔「見たらわかるだろ」
「意味わかんないんですけど…」
翔「意味わかんないなら意味わかるようにするまでだっつーの。」
.
んとにメンドクセェ女だな、って言葉をこぼして取り敢えずどっか入るかって無理やり私の手をとって歩き出す、櫻井さん。
私は信じない。この人が秘書さんなんて。あんな仕事ができて、ぐうの音も出ないぐらいの完璧な人が
こんな強引で真っ黒黒で、女なんてコンタクトレンズワンデーみたいに使い捨てだろなんていう人。
.
グイグイ引っ張られながら歩く街。先を行く後ろ姿を眺めて思う。
私はもしかしてーーー…、使い捨ての一人にさせられようとしてた？
恐らく「使い捨ての山」みたいなのが出来てそうな、そんな山に置き去りにされるみたいな。
.
そんな女に、染められようとしていた？
.
.
そう思えば辻褄があう。
.
櫻井さんの足が止まって、とある洒落ているカフェに入って自由に席を決められるらしく
櫻井さんは一番奥の誰にも見られないような席を選び、私をやはり強引に座らせる。
.
辻褄が合うんだ。
私みたいな女に、優しくしてくれた理由。
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2765人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
