【02】 ページ48
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和也「…八木？」
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自分の声が、自分の声じゃないみたいに聞こえた。
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自分でもびっくりするぐらいその声は震えてて
「やぎ」ってたったの二文字を口にするだけで唇が痙攣したような感覚に陥る。
やぎ、なんて簡単じゃん。ヤギだよヤギ。紙食ってお手紙書くようなさ。
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八木は俺の声に反応すると、ハッと一点を見つめていた目を上げて
慌ててゴシゴシと涙を拭うと、俺の手から強引に書類を奪い取って
スッ…と通り過ぎて
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やがてバタン、という乾いた扉の音。
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和也「……意味わかんねぇ…」
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微かに俺の鼻をくすぐったのは
八木とはそぐわない、甘ったるい香り。
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翔「お前、八木泣かせたの！？」
和也「声がデケェ」
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その夜。いつもはAを含めた四人で飲んだりしてるんだけど、生憎今日は潤くんもAも仕事らしく
久しぶりに翔さんと二人きりでメシを食うことになって。
最近どうよ、って聞かれたから八木のことを話すと翔さんは食べていたつくねを吐き出す勢いで叫んだ。
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赤提灯の、親しみやすい店。
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翔「悪りぃ。つーかマジか。八木が泣いたとこなんて一度も見たことねぇよ俺」
和也「俺だって見たことねえよ」
翔「でも八木が泣いた原因ってお前にあるんだろ？」
和也「あ？」
翔「いや何もないのに泣かないだろ。お前がなんかしたんだよ、もしくは何か言ったか」
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煙たい空気の中、翔さんがビールをゴクゴクと喉に流していく。まるで水のようなハイペース。
俺はそんな翔さんに反比例して、ビールは飲まずカチリとライターに火をつけて
煙草を加えると、口の中に広がる苦い味。
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っはー…と煙を吐いて、左手で煙草を持つ。
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和也「別に？女なんて道具と同等ってぐらい」
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近くにあった黒い灰皿にグリグリと煙草を押しつけると、隣からまるで見計らったように
翔さんが絶句してた。
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翔「いやお前それは無いわ」
和也「え？」
翔「俺が言える立場じゃ無いけどさ…、前までソッチ側の人間だったわけだし？」
和也「そうね」
翔「好きな男にそれ言われたらさすがにきちぃわ」
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は？
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