まだ、恋じゃない 【竈門炭治郎】

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童磨に無理やり握らされた腕を遠巻きに眺めながら、Aは無惨のことを悪い鬼だと言っていた炭治郎のことを思い出す。

いくらこうして人間を食べることを我慢してみたところで、彼にとっての悪い鬼である無惨の命令に逆らえない自分は、結局無惨と同じ悪い鬼ということになるのではないか。

「炭治郎にとって、いい鬼ってあるのかな…」

炭治郎にとってのいい鬼というものになれば、もしかしたら彼を好きだと認めることも、共に過ごしたいと願うこともできるかもしれない。

そんなこと無惨が許すはずもないと分かっているのに、Aの中でのその期待の気持ちは日々大きくなるばかりで、先ほど童磨に恋ではないと否定したばかりなのに、と思わず自嘲の笑みがこぼれる。

「人間のうちに、恋ってやつを経験しておけばなぁ…」

自分自身でも曖昧でふわふわと地に足のつかないこの感情に、どこまで身を委ねていいものか分からず、ふとそんなことを口にしてみるものの、自分の境遇を考えれば夢のまた夢だったか、と思い直してやはりこみ上げてきたのは、自分をただただ憐れむしかない自嘲の笑みなのだった。

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