美少年 【嘴平伊之助】

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「A！」
「伊之助」


伊之助をただの友人ではなく異性として意識し始めた途端、そういえばいつの間にか自分の前では被り物をしなくなったな、とか、普段は粗暴なくせに自分に関することにはいつも優しいな、とか、伊之助の良いところばかりが目について、Aは日に日に膨らんでいく気持ちにどう整理をつけたらいいのか分からなかった。


「…見ろ！Aがくれた油で魚を揚げたら、美味くなった！」
「わぁ、素揚げ？塩をつけたら、きっともっと美味しいよ」
「…ん、おお、美味い！！」


Aも食え！と口に突っ込まれた魚は、伊之助が言う通り確かに美味しくて、Aは「んんっ、美味しいね」と笑みを浮かべる。


「だろ！」


そのままAの食べかけを口に入れた伊之助に、Aは気にしないようにしていてもどうしても意識してしまって、挙動不審になってしまう。


「…？どうした、腹でも痛ぇのか？」


そう言って伊之助に顔をのぞき込まれれば、相変わらずの綺麗な顔が近くなって、Aは慌てて視線を逸らして身体を固くする。


「どこが痛ぇんだ？」


伊之助にそっとお腹のあたりを撫でられて、「冷やしたのか？」と腰を引き寄せられ、Aは突然のことに理解が追いつかず、すっぽりと伊之助の身体に収められたあとやっと事態を理解して、「い、伊之助！」と暴れ始める。


「身体を温めるには、身体を寄せ合うのが一番だ。静かにしてろ」
「別に私、寒くないから…！」
「腹が痛ぇんだろ？早いうちに温めておかねぇと、腹を下すぞ」


そう言って優しくお腹を撫でられると、純粋な伊之助の好意を無下にするのも悪い気がして、Aは無言で伊之助の胸に収まったままでいることにする。

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