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その後すぐにAの傷の手当てが施され、寝床まで用意されるがAの血が止まることはなく、だんだんと血の気を失っていくAの顔色を見て焦りを覚えたのは、無惨だけではなかった。
「…何故、こんなにも傷の治りが遅いのだ」
戸惑ったようにそう言った無惨に答えたのは、Aを心配そうに見つめて眉を下げる炭治郎。
「人を…食べてないと言っていました。もしかしたら、それが…」
やせ細った身体、艶も潤いも失った肌を見れば、Aがどれほどの覚悟と辛さを感じながら生きてきたかは痛いほどに感じられた。
「…このままでは…、」
無惨の悲痛なその言葉の先は、その場にいる誰もが心の中で感じていることで、辛そうに眉を寄せている目の前の無惨が、これまでずっと恨んで来た相手だとしても、同情を感じずにはいられなかった。
「…自業自得、ですね。月彦さま…」
「A…!」
ゆっくりとまぶたを上げたAがそう言って笑うと、無惨は驚いたようにAの名を呼んでその手を強く握る。
「今、月彦さまが感じているその辛さを…ここにいらっしゃる方全員に、味あわせてきたのです」
血を失いすぎて寒気がするのか、震えながらそう言うAは、無惨を見つめたまま綺麗な笑みを崩さない。
「…ずっと…、貴方の側にいれば良かった」
そう言って苦しげに細められたAの瞳からこぼれ落ちた涙は、静かに頬をつたってAが横たわる布団に小さなシミを作る。
「A…!」
最後に優しく無惨に微笑みかけたAは、そのままゆっくりと目を閉じて、名残惜しむ間もなく指先からどんどん灰になっていく。
「Aっ、」
そのままあっという間に跡形もなく灰となって消えてしまったAは、そこに存在していたことすらなかったことのように全てが消え去って、残ったのはAが残した小さな涙の跡だけ。
Aが居た場所を見つめながら、何も言うことなくただただ涙を流し続ける無惨を気遣い部屋を出て行く柱の者たちに続いて、ゆっくりと立ち上がった炭治郎は、最後に一度だけ無惨を振り返る。
「!」
Aの着物を手に取りそれに唇を寄せる無惨の姿があまりにも現実離れした美しさで、まるで見てはいけないものを見てしまったかのような気分になった炭治郎は、慌ててふすまを閉める。
そのあとすぐに、無惨を心配した炭治郎が様子を見に戻ったが、炭治郎が見たそれを最後に、無惨の姿を見た者は居なかった。
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チーズ(プロフ) - manayattiさん» コメントありがとうございます!嬉しいお言葉をありがとうございますー!!こちらこそ、最後まで読んでいただきありがとうございましたm(__)m (2020年12月26日 22時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
manayatti(プロフ) - とても美しすぎて儚すぎる結末に声が出ないくらい涙しました。素敵な作品をありがとうございます。 (2020年12月26日 2時) (レス) id: 1471b15ec3 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - 草薙@sadist_nagiさん» コメントありがとうございます!そして最後まで読んでいただきありがとうございました!かく言う私も、目から大量の海水をこぼしながらこの作品を書きました、、自分で言うのもあれですが、本当に切ない結末ですよね(;ω;) (2020年12月25日 15時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
草薙@sadist_nagi - …あれ…目から海水が(( (2020年12月25日 14時) (レス) id: b78cc7195a (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - ゆうこさん» コメントありがとうございます!もちろん気付きました〜!そんな風に言っていただけて嬉しいです!最後まで読んでいただきありがとうございましたm(__)m (2020年11月11日 23時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:チーズ | 作成日時:2019年11月29日 19時