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「…その薬だけ、特別苦しくなるように作ったそうですよ」
何を思っているのか笑顔でそう言うお館様に、無惨も笑みを浮かべたまま「そうですか」と素直に薬を受け取る。
「…。」
きゅぽん、とその場に似つかわしくない軽やかな音を立てて開いた薬に、無惨はそのまま躊躇なくその中身を口に流し込む。
その場にいる全員で無惨の喉が嚥下によって動くのを見届けて、あまりにもすんなりいってしまった物事に、しばらくの間部屋の中を静寂が包みこんだ。
「…、」
お館様が言った通り副作用があるのか、無惨のだんだんと上気していく顔色と、冷や汗か脂汗か頬を滑り落ちていく雫が、顔を俯かせているせいで表情の見えないAには涙に見えてしまって、居てもたってもいられなくなる。
「…もう薬も飲みましたし、無惨は帰してもいいんじゃないでしょうか!」
Aを気遣ったのか、苦しげな無惨を気遣ったのか、大きな声でそう言った炭治郎に、どうせ薬の効果もすぐには出ないだろう、と同調した柱の者たちが、最終的な判断を仰ぐようにお館様に目を向ける。
「…そうだね。無惨にはAが付いていてくれるだろうから、逐一報告をしてもらうことにしようか」
「は、はいっ!」
突然名前を出されたことに驚きつつAが返事をしたのを合図に、順々に皆が部屋を出て行って、炭治郎がAに笑みを向けて出て行ったのを最後に、Aと無惨は広い部屋に二人きりになる。
「…あの、大丈夫ですか」
一向に顔を上げようとしない無惨の顔をのぞき込みながらAが声をかけると、いつもとは違う獰猛な獣のような無惨の瞳に、Aは戸惑ってしまう。
「…貴女が欲しい」
「!」
物理的に、と付け足された言葉に、Aは一瞬違う意味で捉えそうになったことを恥ずかしく思う。
「身体が…薬の作用を、中和させようとしているようです」
滝のように汗をかき、息も荒い無惨は表情でこそ冷静を装っているが、今すぐにでも目の前の甘い匂いを漂わせるAに喰いつき、骨の髄まで食べ尽くしてしまいたいと、強烈に訴えかけてくる本能に抗うのに必死だった。
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チーズ(プロフ) - 美鬼さん» コメントありがとうございます!無惨様かっこいいですよね!!私も好きすぎて、自然と無惨様の作品が増えてしまいました(笑)こちらこそ最後まで読んでいただきありがとうございました!これからも無惨様どんどん書いていきたいと思います(^^) (2021年2月10日 12時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
美鬼 - ついこの間鬼滅にはまり、見た中の最後に出てきた、無惨様のかっこよさに惚れてしまって、小説を探してたんですが、どれも更新されずに終わったものばかりで…、最後まで書いてくださって本当にありがとうございます!無惨様にこれからもドキドキしそうです…、 (2021年2月10日 0時) (レス) id: 2739ea30a5 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - manayattiさん» コメントありがとうございます!そんな風に言っていただけるなんて、嬉しすぎます(;ω;)これからも無惨様書きます!!よろしくお願いします(^^) (2020年12月26日 22時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
manayatti(プロフ) - あの、、、大好きです、、、ほんとに無惨様の作品が少なくて無惨様の作品を作って頂けるのはほんとに嬉しいです、、今まで色々な夢小説を見てきましたがチーズさんの作品が1番好きです。恐縮ですがこれからも無惨様の作品を作って頂けると嬉しいなぁと思っております (2020年12月26日 15時) (レス) id: 1471b15ec3 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - マナさん» ありがとうございますー!!強くなっていくのでしょうか!温かい目で見守っていただけたらと思います(^^) (2020年8月7日 11時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:チーズ | 作成日時:2020年7月28日 19時