私を、愛して 参 【鬼舞辻無惨】

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「Aさん！」
「しっ、今は寝ています」


場所は蝶屋敷。

Aが眠る部屋へと血相を変えて飛び込んできた炭治郎は、しのぶの言葉に慌てて口をつぐんで、真っ青な顔で眠るAの顔をのぞきこむ。


「…。無惨の、匂い…」
「…あと少し、処置が遅れていたら危ないところでした」
「傷は首だけ…。首を斬られたってことですか？」
「いいえ。噛みちぎられたような跡でした」


昨夜、蝶屋敷に着いた途端何も言わずに倒れてしまったAに、しのぶもAに何が起きていたのか分からず、ただ噛みちぎられたような首の傷から、鬼と戦った後なのだろうというのは推測できた。


「…？先ほど、無惨の匂いと言いましたか？」
「はい。…Aさんからは、無惨の匂いがするんです」
「…ですが、Aさんは人間ですよ…？」
「はい、人間です」


難しい表情で炭治郎としのぶが見合ったとき、苦しげな声をあげながらAがゆっくりと目を開ける。


「Aさん！」
「…、たん、じろうくん…」


ぼんやりとした表情で炭治郎に目を向けたAだったが、すぐにその表情は苦悶の表情に変わって、しのぶが慌ててAに痛み止めを打つ。


「Aさん、もう少しで命が危なかったって…、何があったんですか？」


炭治郎の問いに一瞬意味が分からなそうに炭治郎を見つめたAだったが、すぐに何か思い出したように表情を歪めて、その瞳からはじんわりと涙が溢れてくる。


「…私…、取り返しのつかないことを、」


そう言って嗚咽をあげながら泣き始めてしまうAに、しのぶはAの手を握り、炭治郎はAの頭に手を伸ばす。


「大丈夫です。…人間、生きてさえいれば、案外なんとかなるものです」
「む、無惨っ…！鬼舞辻無惨だったの、」
「！」
「炭治郎くん、私から無惨の匂いがするって…間違いじゃ、なかった」


要領を得ないAの言葉に、いまいち理解が追いつかなかった炭治郎としのぶは、「無惨だった…？」とAの言葉を繰り返して、大粒の涙を流すAをただ見つめる。


「す、好きな殿方がいて…たまに、偶然会えるだけの…。でも私、鬼殺隊向いてないから…鬼の気配もよく分からなくて」
「…、」
「すごく、穏やかな人だったから。…いつも、優しいから…まさか鬼だなんて…」


あまりに衝撃的なAの告白に、炭治郎もしのぶも、何も言うことができなかった。

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