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「お先に失礼します」
17時過ぎ。
パソコンの電源を切って、トレンチコートとカバンを片手に会社を後にした。
コートを羽織りながら駅への道を歩く。今日は何作ろうかな、スーパー寄らなきゃ…
「…A、」
後ろから聞こえた声に足がピタリと止まる。ゆっくり後ろを向くと、同じく仕事帰りなのかスーツ姿の海。
「……海…」
「………良かった、会えた…」
道端で向かい合い、黙り込む。当たり前だけど、以前みたいな楽しいムードなんて全くなくて。あれから海は私にたくさん連絡をくれたけど、私は連絡なんてできなくてずっとそのままにしていた。
「…A、あのさ、」
「……ごめん、急ぐから」
「A、待って」
その言葉の先を聞きたくなかった。結局何を言われたって、あの事実は変わらない。
掴まれた右腕に、海の手の力が篭る。他の子を抱いたこの手で、触ってほしくないと思ってしまうのは心が狭いだろうか。手を振り解くと、海は少し俯いてから話し始める。
「……あの事、なんだけど」
「………」
「…最低な事したってわかってる。でも、俺が一番好きなのは……Aだから……」
「……認めるんだね、」
「………」
「…………なんで?」
理由を聞いたところで私は許せるのだろうか。海は俯いて黙り込んでしまった。海のこんな姿を見たのは初めてだった。
「………ごめん」
泣きそうな顔で謝られて。一瞬許してしまいそうになった。だって凄く優しくて、いつでも自分より人を最優先、そんな海の姿をずっと見てきたのだから。
たった一度の浮気、一度目なら、許してもいいんじゃないか…なんて、甘すぎるのだろうか。
「………考えさせて」
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エリンギプール(プロフ) - 続きが気になります! 大変だとは思いますが、更新待ってます! 頑張ってください (2018年12月15日 23時) (レス) id: b1e7a3c80b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:な な . | 作成日時:2018年10月10日 23時