婚約破棄のその日まで【tn】

6.責任なんかじゃない【tn side】 ページ7

何で、どうして、と頭の中でその言葉が反復してぐちゃぐちゃな感情に吐き気すら覚えた。



目の前には血だらけの彼女。



更にその奥には護衛人に捕まり暴れている男。





「Aｯ！Aｯ！！」





名前を呼んでもうっすら目を開けるだけしか反応が返ってこない。



死ぬ…？


Aが俺を庇って死ぬ……？



Aは大事な人なのに何で守れなかったん
むしろ守られたのは俺やんか




「強くならな…」







病院に運ばれた彼女は一命を取り留めた。
それでも目を覚ますのはもう少しかかるだろうと言われた。






彼女が目を覚ます事無く1週間が経ち、俺は父さんの執務室へと出向いた。



「父さん、あんな…俺…」


「…」


「Aと結婚したいねん」




罪悪感とか責任取ってとかじゃなくて

俺はAを守りたい

俺の知らないところで居なくなったらって考えただけで気が狂いそうなんや



これから俺は強くなる、守れるように、絶対強くなってみせる




だから婚約者にして貰えませんか








自分の思っていることを正直に話すと父さんは少し渋い顔をしたが了承してくれた。

もしかしたら否定はしてるが自分の息子が罪悪感から突っ走ているのかも、と思ったのかもしれない





それから２日後、ハーベル伯爵家へ出向いた。
未だ目を覚まさないAを見るのは少し辛いものを感じたが見ないという選択肢は無く。

いざ彼女の顔を見ると、顔色が悪いわけでもなく“ただ眠っている”という様子で少し安心した。




そして俺はハーベル夫妻へと向き直る。




「今回のことは俺が弱かったせいで招いた結果です。

…俺は強くなります。
今後、こんなことにならないように

それでAのこと守ります。


せやから俺を彼女の婚約者にしてください」




勢い良く頭を下げた俺に驚いた様子の夫妻は顔を一度見合わせてから優しい笑みを浮かべる。




「私たちにとっては嬉しい話だ。

Aも君に懐いているし、私も君のことを気に入ってる

…だからAが目を覚ました時、婚約の話をして拒否する事がなかったら受け入れようと思う」




良かった…。

溢れそうな涙を堪えてもう一度深く頭を下げて退室しようとした時、伯爵が「トントン君」と俺を呼び止める。




「今回ことは君が弱かったせいじゃない…



Aが勇敢すぎたんだ」






その言葉に、堪えていた涙がこぼれ落ちた。

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