婚約破棄のその日まで【tn】

【request】害虫駆除はお早めに ページ32

いつかは自分も攻撃を受けるかもしれないと思ってはいた。
それが敵国のスパイにしろ内部の嫉妬による行動にしろ

だけど、まさかこんなチープな嫌がらせだとは思わなかったり…



『上から水かけるとか今どき学生でもやらないよ…』



頭上の窓からクスクスと笑う声と駆け足でその場を去る足音が聞こえため息をつく。

そりゃ危険な目にあいたいわけではないけど、どうせやるならもっと違うアプローチはないものか
気に食わないことがあるなら直接来たっていいのに…


足元に出来た小さな水溜まりに映る自分を見て、抑えられないため息をもう1つ吐いた。



「あれ、Aやん！あれ？何でずぶ濡れなん？」

『こんにちは、シャオロン様。これは…ちょっとした事故で』

「事故…？」

『侍女が零した水がかかってしまったんです』



まぁ意図的に零されたんですけど。



「ふーん…まぁ、困ったことあったら言うてや！トントンほどじゃないけど力になったるからな！」



にかっと歯を見せて笑う彼に笑顔で『わかりました』と言うと上機嫌で巡回に向かっていった。


しかし、こんな幼稚で些細な嫌がらせを幹部様に相談するのは流石に避けたい。
死と隣合わせの軍人がこんな事で悩んでる暇なんてないのだから




『様子を見よう…』



まだ嫌がらせは始まったばかりだし




…


それから数日、頭上から水を降らされるという行為に慣れてきた頃、

たまたま通りかかった通路の上から自分の名前が聞こえ足を止める。



「ほんっと目障りなんだけど、あの女」

「突然軍に来て書記長補佐なんて信じらんない！！」

「それに幹部様方に馴れ馴れしいのよ！」

「今日も水掛けてやりましょ！」



おぉう…普通に悪口。

私だって書記長補佐になったのは驚きですよ、でもあなた方に目障りと言われる筋合いはないんですが




「A、やっと見つけたわー」



どんどん盛り上がる悪口大会をぼんやり聞いているとすぐ後ろからトントンの声がして振り向く。

上にいる彼女たちは気づいていないようで、水の準備をしているようだ

あれ、これってトントンにもかかるのでは？



「最近、虫がうざくてなぁ」

『はい？』

「害虫駆除せなあかんねん」


どういう事だ？
不法侵入者のことは観光客と呼ぶ為、“虫”という隠語は無いはずだ。




え？まさか……本物の虫のこと…？

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