雀の囀り。燕のジレンマ。【伏黒甚爾】 (ページ37)

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37:空気より透明な(8) ページ37

｢つか、何時バラした？｣
｢…今さっき。なんで居るのって｣

―俺はお前が好きだ。
別にソッチの趣味が有るか否か、そう言う話では断じて無い。ただ、お前の面が良いのは認めてて、それで口を開かなきゃ上々だと思うだけ。これはどうにもならん。

｢釘刺すぞ、鋏は自分に向けるな｣
｢うん…。馬鹿と鋏は上手く使う｣

―俺はお前が好きだ。
術式を持ってる奴ら。無くても鍛え散らかす筋肉ダルマ共。俺はこの屋敷が、お前を除いた禪院家の人間が全員嫌いだ。

｢そうしろ。俺がヒヤヒヤした｣
｢本当は縫って貰おうかなって｣
｢…本気にしてたのか？｣
｢うん。かなり｣

頭の中でお前は常に巫山戯け倒して、色々とバカにしてる。頭ん中で遊んで、狂ったこの家から意識を逸らす。俺らに人権は無いから選択肢も無い。全て詰んでるし、無視するしかない。

俺は嫌味で体裁を整え、言葉を体で現す。しかも、呪力はゼロ。天与呪縛の身体的天与(フィジカルギフテッド)。お前は笑顔で誤魔化し、上っ面で隠す。どっか、何かが皆無。天与呪縛は表層的天与(サーフェスタレンテッド)

｢…黙っとけクソッたれ｣
｢俺の名前はうんこさんって？Aだよ？｣

会話をしてると少しは気分がマシになる。お前はずっと、楽しそうに笑ってるから。俺はそれを見てて、気持ちが楽になった。居るだけマシ何て言葉じゃ足りねぇ。

｢…ハイ、ハイ｣
｢ハイは1回で｢ハイ。これで良んだろ？｣

―俺はお前が好きだ。
グレてる俺とスレてるお前。似たような天与呪縛。二つ離れた歳。男同志。反りが合う理由なんてそんなもん。

｢うん。消えなかったね、口元の傷｣
｢…今更かよ｣

―俺はお前が好きだ。
もうどうしようもねぇ。俺はどうやっても理解出来ない。俺はこの家を捨てて出て行く。このままだと此処で寝ちまいそうだからお前の頭を軽く叩いて退かさせる。

｢うん…。忘れないから｣
｢…せいぜい気張っとけ｣

互いに対面して立てばガキの頃は見上げてた頭が下にある。なんと言うか、これが最後だとはどうしても、考えたく無かった。

―俺はお前が好きだ。
これも、どうにもならねぇ。そんなもん。で幕を閉じる位なら最後にガツンと一発お見舞いしてやる。既に狙いは定まってるし絶対にミスらない。

｢またな、A｣
｢ぇ｣

初めて名を呼んでやると、驚きの声を上げてお前は俺を見上げた。その瞬間を狙って一瞬だけ、触れて離すだけの単なる味見。感想は思いの外柔らかくて、優しい味がした。