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18:囚人のジレンマ(8) ページ18

俺は赤が嫌い。

「(怖い怖い怖い怖い)」

起きて布団を見た瞬間に絶句して、手の震えが止まらなかった。堪らなかった。もう自分ではどうにも。

男の赤い顔を思い出し、そこから赤で想起されていく舌、血液、紅葉、口紅、赤子とか色々が全部嫌。明るい部屋で朝起きるのも、太陽の光に目蓋が透けて燃え盛る炎の様に見えるから嫌。

床に膝を突いて硬直したまま、思考は止めない。

いま止めたら今日の仕事が出来なくて、懲罰室へ行かされるのは願ったり叶ったり。でも、それはそれで迷惑をかけて、怒られて、時間を無駄にして、後々の面倒事が、

「(甚爾ならどうする?)」

こうして、こうなる。降って湧いた考えに合わせて、淡々と思考回路を整える。

「(売られた喧嘩なら買っとけ)」

これは俺の性に合わないし、腕っ節やら根性論なんかはクソ喰らえ。何ならまた赤を見る事になる。

「(ベソかいて引っ込んでろ)」

これも俺の性に合わない。泣き顔を晒してヨがられるのも俺の理解の範疇を超えてるし、はっきり言うなら気色悪い。

然しながら、見ず知らずには出来ない目下の事象。何にも存ぜぬでは到底押し通す事も、むしろ今の内に対処を決めないと自ら後々の面倒事を招く。

『…胸貸してやろうか?』

甚爾の声で調律が済んで、俺の選択肢が開けた。

「(野球と掛けて。昨夜の俺と解く)」

整然とは掛け離れた心理状態ではあるけれど、もはや上手く予定に組み込んで昇華するのみ。

「(いや!待って!お願い!…長打(腸だ)。長嶋茂○(流しましょう)、ってキツいなぁ)」

季節はまだ秋。既に夏の茹だる様な暑さは消えて、時折香った金木犀もいつの間にやら雨で花を落とした。それでも明々と赤に染まる紅葉はギリギリ見れる。

何なら少し寒くも有るから、庭に落ちた枯葉を掃いて焚き火を起こそう。申し訳無いけど、赤を洗うのは無理だと諦めて、燃したら最初から生まれる筈のない水子の供養にも成るかと。

一先ず全てをやり切った後に甚爾に聞いて貰えば、そうすれば俺の中の色々が全て消化されるはず。

「(早く冬に至って欲しい)」

普段の生活で俺と甚爾の間には、特にこれと言って接点がない。廊下ですれ違う時コソッと、男児たるもの何とやら精が出ると、食事時に現れた所を程度。

それはともかく、まともに会話するのは最初に会った懲罰室か外。今日に限っては体に負担をかけたくない、加えて火があるので外に出たくない。

ともなると、若干の嫌悪感はあるが致し方無し。

「部屋来て」

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作者名:ゆきみ大福 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/mutsuki159/  
作成日時:2021年6月12日 11時

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