17:囚人のジレンマ(7) ページ17
巡り巡って季節は秋。
普段の生活で俺とお前の間には、別にこれと言って接点がない。廊下ですれ違ってサクッと、日々鍛錬とか理解出来ねぇもんに付き合ってる時チラッと、飯時にバタバタしてる所を程度。
偶に廊下でコソッと言われんのはタイムリーのネタ。女にフラれた誰が来た。聞いた俺は、ならソイツにも腹立ってるから傷に塩ぶち込んで、みてぇな。
若しくは警告がある時。最初は天気予報かと思ったが、落雷注意と言われれば行く先でキレ散らかしたゴミに当たる。大雨なら泣き崩れてる奴と鉢合わせた。
それに気付いてからは迂回するか、バリエーションは色々でも想像がつきゃ幾らでもやり用があった。因みに吹雪ならシリアスな場面に遭遇する。そん時は空気を読まずに突っ切る。
それはともかく、まともに会話すんのは最初に会った懲罰室。もしくは俺が最初に引っ張った外の何れか。
｢部屋来て｣
の筈だったんだが。初めてすれ違いざまに妙な事を言われて若干の嫌悪感。
｢趣味じゃねぇ｣
｢千切る｣
普段通りの反応。これは別に悪気が有って言う訳じゃ無いが、互いの部屋に行くってのも、端的に言えば糞野郎共と重なるから無し。
俺の部屋に上がらせれば俺が糞野郎と同じ事をしてる。お前の部屋に上がればお前が糞野郎を出迎えるのと同じ事。どっちも胸糞悪ぃ、だからしない。
で、これは変な誘いじゃない。それなら何か分からねぇし、何時もと違うから何事かと思ってお前の部屋に来てみた。
｢…一体ナニがどうした？｣
そこは質素で狭くて、箪笥以外は殆ど何も無い。後を挙げると押し入れ。文机と筆記用具、辞書。姿見で以上。窓は有るには有るが格子窓で、正直に言うと余り居て気分の良い部屋じゃない。
それは良くないが置いといて、やっぱり何か可笑しい。笑える感じでもない。久しく表情を覗えば顔色が悪いし、何かに怯えてる感じ。
瞬時に過ぎる嫌な予感と居心地の悪い部屋に加えて、明らかな違和感。
｢…瀕死。ケツが｣
｢クソったれ｣
通常運転。途端に俺を襲ったのは安堵。
｢実はまだだよ？｣
｢…知った事か｣
無駄にハラハラして不安になった。理由は分からんが最悪の事態や、今生の別れの挨拶を想像した自分がいた。
｢(洒落にならん)｣
｢今は…肛門の前で『控えおろう』してる｣
良かった。だなんて変なため息を吐く自分がいる。全部どうでも良くなった。ただし、俺を呼んだ事にはお前なりの意図が、理由がある。
｢汚ぇなぁ…。つかなんで呼ばれた？｣
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作者名：ゆきみ大福 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/mutsuki159/
作成日時：2021年6月12日 11時
