05:大切なのはバスケット！ ページ6
【トロイ】
「そっちいったぞー！！」
「おっけー！任せろ！」
ワックスで磨かれた床を踏みしめる音と、快活な声が体育館の中に響く
そこかしこから上がる声は変声期前後のまばらな声色
その声の持ち主たちもまた、成長期途中のまばらな体つきがジャージから延びている
中でも一際注意を引くのは高めの身長の少年
特徴はそれだけでは無いが、大雑把に説明すれば整った容姿の外国人だ
彼は留学生として並盛中学に入学した藤城汐路
イタリアから日本へ来ている
バスケットボールが床を打つ音と振動が、一種の高揚感を作り出す
そんな空間の中で汐路の声は鋭く響いた
「誰か！俺の愛を受け止めてー！」
先ほどまで汐路の手元にあったボールは、一直線にかつ早めの速度で手から放たれる
間の抜けた言葉が、試合中である男子生徒たちの軽やかな笑い声を誘った
しかし、そのボールは誰の手に渡るでもなく、コートから場外へ
「あはは！何で誰も取んないの！？」
「悪い汐路！笑ってた！」
「お前が愛とか言うからだろ！」
汐路が仲間のチームに笑いながら声をかける
理由は様々だが楽しそうだ
場外へ飛んでいったボールは敵チームのものになった
「ツナパスいったぞ」
ボールはツナと呼ばれた茶色い頭の少年の顔で受け止められる
痛そうな音と吹き出す声が聞こえてきたかと思えば、彼は体勢を崩して転んだ
「あいたー」
「またかよー」
「たのむぜツナ！」
痛みで声をあげた少年はそのまま床に伏せている
その間にも試合は続き、彼に御構い無しに点を取られた様で試合終了の合図が響く
最後に点を入れたらしい汐路は天井に向かって拳を上げ、ガッツポーズを取っている
その周りを囲む生徒達も楽しそうだ
一方それを遠巻きに見ているツナのチームメンバーは何だか不満げな様子
当の本人はまだ床に伏せたままだ
そんな状態のツナに気づいたのか汐路は賑やかな輪から抜け出した
汐路はツナを気遣う様に手を差し伸べている
ツナがその手掴み立ち上がると、汐路は目線を合わせる様に立つ
「大丈「汐路ー！さっさと着替えようぜ！」
「ダメツナなんかほっとけよ！」
さっきまで汐路を囲っていた生徒達は彼の言葉を遮り、彼をツナから引き離していった
「(お礼も出来なかった)」
取り残されたツナは、そんな汐路を申し訳なさそうに見ていた
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作者名：ゆきみ大福 | 作成日時：2020年10月20日 17時
