39:メランコリー ページ40
【サイダーガール】
家につくと2人とも服を着たまま、お風呂場へ向かう
海水のベタつきと、砂を早く落としたくてしょうがなかった
立ったまま熱いシャワーを浴びれば、体と服についた砂粒が足元に流れて行くのがわかる
「びしょ濡れでバイクって、めっちゃ体冷えるね」
「君が悪い」
「耳痛い」
後ろから聞こえた声に目を向けると、君は体を震わせて
滝行の様に背中にシャワーを受けて、俯いて僕の方に体を向けている
「君が悪い」
「本当にごめんなさい」
熱いシャワーを正面から君にかけてやれば、阿保らしい声が上がり
僕に向かって両手の指を交互に組み、祈る様に膝を床につける
最初は心配していたのに、気づけばいつも通りの君がいて
僕はもうおかしくなってきて、肩を震わせて笑ってしまう
「…今日のメニューは!白米!薬味たっぷりカツオのお刺身!なめこの味噌汁!ピーマンのお浸し!冷奴!胡瓜の浅漬け!」
力強く言わなくても僕には聞こえるだろうに、そんなところも阿保らしくて君らしい
もう思ったことを素直に言ってしまおう、1人で悩んで落ち込まれるよりは良い
「…汐路、学校でも今みたいにしてなよ」
シャワーを止めて君に言えば、あまり聞こえていなかった様で
君は組んでいた指を解いて、シャワーの水飛沫を両手で受け止め下を向いている
「今なんてー!」
そんな君の言葉に付き合う必要はもうないから、背を向けて服を脱いでいく
「早く、お腹減った」
それだけ言えば今度は君に伝わった様で、君は何かバタバタとしはじめた
お湯張りを止める君が視界の端に一瞬見えた
しばらくは後ろから床に泡が流れてきて
そして風呂場の扉が開き、閉まる音
「(ご飯の支度しに行ったんだろうね)」
この際、君を気にせずにゆっくりお風呂に入っていよう
湯に浸かりながら今日起こった事を思い返してみる
期待してから、心配して、イラついて、イラついて、絆されて
振り回されてイラつくけど、退屈はしないし
「(僕は嫌じゃない)」
「(久しぶりに泣き顔見れた)」
「(泣き止む瞬間も、僕が泣き止ませた)」
そう考えていると、不思議と気分が良くなってくる
いつからそう感じるようになったのかは分からない
「(昔もそう、今も変わってない)」
僕はそれに何故か安心する
「…本当に、気分が良い」
誰も居ないからか、思わず独り言が出た
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作者名:ゆきみ大福 | 作成日時:2020年10月20日 17時