32:black sheep ページ33
【米津玄師】
「(綱吉に嫌な思いさせたよね)」
汐路は反省しながら日課を終わらせに重い足取りで道を行く
太陽はようやく45°を過ぎたくらいだろう
すれ違う人の思考は様々だろうが、買い物帰りの人が多いのかとは見てとれる
「(今日の晩ご飯は何にしようかな)」
彼はイヤホンから流れる音楽に耳を傾けながら、考え事の方に意識を集中する
しかし他の事に思考が奪われる様で中々先に進まない
「(綱吉困っただろうな)」
1歩なら1歩、3歩なら3歩下がる様な思考が続く
次第に考え込むのを放棄して汐路は走りだした
次第に彼の視界に緑の大地が広がる
野に咲く草花と動物の鳴き声、それと彼の家族
「(会いたいよ)」
必死に走れば見えなくなる事実などないと分かっていても、走り続ける
続く地面の先には彼の家が見える、茶色の壁に赤い屋根、それから伸びるレンガの煙突
もう目の前には木製の扉がある
それを開けてはならないと分かっていても、彼は走り続ける
扉をくぐれば、広がる温かく赤い飛沫
自分を見下ろす金の髪に青い瞳
早くなる心臓、浅くなる呼吸、冷たくなる体温、稲妻の様な痛み、暗くなる視界
「(金の髪も青い瞳も背中のやつも、
全部なければ、輪の中に馴染めるのか、
溶けて一つになれたのか、俺が…)」
彼はその景色の中をずっと走っている
何度も、何度も繰り返して
その時、汐路は体に細かな振動が響くのを感じて走るのをやめた
服の胸ポケットで震えるそれは、紫の光をしばらく点滅させてピタリと止まる
彼はそれをじっと見ていたが、時折定期的に点滅するのを見て
視界に入らない様に、ズボンの後ろのポケットにそれを移した
「(何も見てない、何も知らない、何も分からない、何にもできない)」
そう考えながら彼はまた走りだす
「(俺の隠れ場所はどこにもない)」
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作者名：ゆきみ大福 | 作成日時：2020年10月20日 17時
