31:あの夏へ ページ32
【千と千尋の神隠し】
大切にする、そう言って笑う彼がとても寂しそうで驚いた
「これ貰ってもいいの？」
「う、うん、母さんから」
汐路くんは笑顔で写真を見つめながら俺に尋ねてくる
俺はそんな彼をじっと見ていた
「(学校では見た事ない顔してる)」
「ありがとう！この間なのに、すごく懐かしい」
「(すごい明るい)」
「話しかけてきた時、写真に写り込んだかもって焦ってさ、話聞いたら息子が恥ずかしがるから一緒に写ってって」
「(よく話す)」
「最初驚いたけど、楽しそうだし良いかみたいなー」
「(しかも適当だ)」
「…つなよしー」
呆けて見ていた俺の名前が呼ばれて、はっとする
ひらひらと手を振りながら、苦笑いしてる汐路くんに気がついた
「ご、ごめん、学校の時と雰囲気が…」
俺が話す途中で、彼は暗い表情で顔の前で指を組み、テーブルに両肘を突いていた
「えっと汐路くん？」
「それで？」
「思ってたのと違うなって」
「…」
「なんか近寄り難いと思ってたけど」
なんか悪口を言っている様な気分になってきた
「…俺そんなに酷い？」
「…酷いというか派手で目立ってて」
「ガラ悪い？」
「少し」
「獄寺と俺どっちが酷い？」
「強いて言えば獄寺くん、かな」
それを聞いたや否や、彼は組んでいた指を解いて顔を覆うと泣き真似を始めた
「強いてごめんねぇ」
「いや！」
「本当にご迷惑おかけして、ごめんねぇ」
「汐路くんは悪くないから！」
ではと帰り支度をし始める彼を落ち着かせて座らせ、話をきこうとすると
「…綱吉みたいな友達が欲しかったなぁ」
「え？」
「つー君ただいまー！」
その時ちょうど母さんが帰ってきた
話は途中で止まり、挨拶だけして帰ると汐路くんは俺に言う
汐路くんは席を立ち玄関に向かうと
母さんと何か会話をしながら、買い物袋をその手に持って戻ってくる
その袋をテーブルに置き、母さんに笑顔で挨拶をして、汐路くんは玄関へ向かう
俺はそれについて行って、話かけようか迷うけど拒まれてる気がする
それでも、お見送りだけでもしたかった
「いきなりお邪魔してごめんね」
「いや全然！…話せて嬉しかった！」
俺が笑いながら言えば、彼も笑顔を返してくれる
「また学校でね、汐路くん」
「うん、写真大切にするね」
「ありがとう、お邪魔しました」
ひらひらと手をふる彼の姿は、扉の向こうに吸い込まれる様に消えていった
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作者名：ゆきみ大福 | 作成日時：2020年10月20日 17時
