【中編小説】タコは彼を恋人にしたい (ページ4)

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特別な存在になりたい話 2 ページ4

部屋のソファーに身体を沈め、パソコンと資料を交互に見ながら仕事をしだすA。

その横顔を見るのが毎週末の楽しみと言ってもいい。

ジェイドの様に付けられた黒い革手袋。
初めてあった時は気づかなかったがAは潔癖症だった。

当時、フードを触ろうとして避けられたのもそれが理由だったんだと後で知った。

極度の潔癖症という訳では無いが自分の懐に置ける程仲が良くなければ触る事すら嫌だと教えてくれた。

「そう言えば……」

『んー？』

「A、仲良くないと触れないのに入学式の日僕の事普通に触れてませんでしたか？」

『あー、手袋してたし…それに困ってる奴見捨てる程そこまで潔癖症じゃないから』

「そうですか」

『そ～』

Aの視線は僕の方からまたパソコンに戻る。

僕以外の困ってる人なんて見捨ててしまえばいいのに。

そう思うがAは誰にでも優しいのでそんな事するはずが無い。

それもAの魅力の一つと言えばそうなのだが、その優しさを受けた側の中には勘違いを生むものも多い。

先月もAの優しさを鵜呑みにした1年がAに尻尾を振りながら付き纏っていた。

誰にでも優しいという事は“特別”というものが無いという事。

みんな平等。
みんな公平。

するとその優しさを受けた側は次第にAの“特別”になりたがる。

僕もその一人だ。

きっと今Aの中で1番の存在はラギーという幼馴染だ。
幼馴染を超えるつもりは無い。

ただ、ずっと一緒に居た幼馴染は今はレオナと言う3年のお世話係だ。

Aと居る時間が減ってるのは一目瞭然。
と、なれば暇さえあれば僕の所へ来てくれるのだ。

サバナクロー寮で友達が居ないわけでは無い。

寧ろこの性格なので多い方のAだが、こうして週末僕と居る為ここ数ヶ月間で他と比べて距離もかなり縮まっていた。

『アズール、これなんだけどさ』

「どうしました？」

資料を持ってこちらにやってくるA。

資料を見るふりして近くに顔を寄せても避けること無く、疑問も抱かずいる。

これは僕の努力の賜物だ。
週末にこうして2人で会うことで距離感を縮めれてるおかげ。

徐々に外堀から埋めていけば、いつか必ずAの“特別”になれる。

全て計画通りに、抜かりなく僕の存在をAに植え付けてやる。