monologue ページ1
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それは突然だった。
ナイトレイブンカレッジに入学したばかりの頃だ。
並んでいた目の前の生徒が僕にぶつかってきた。
まだ陸に来て慣れてなかった僕の足はうまく力が入らず後ろに倒れそうになる。
生憎、腐れ縁の2人は離れた場所に並んでいたから僕を支える奴なんて居ない。
次にくる衝撃を覚悟し目を閉じた。
若干の浮遊感を感じながら身体が後ろへ倒れる。
そのはずだった。
『っと、あぶね。…大丈夫か?』
「!」
肩を抱かれる形で僕を支えたのは僕の横に居た男だった。
男は口元しか見えない程、式典服のフードを深く被っていたが頭から覗く黒い小さな耳でサバナクローの生徒だと理解した。
「…ありがとうございます。助かりました」
小声で男にそう言えば男は小さな牙を見せながら『陸にまだ慣れてないのか』と笑った。
その言葉は些か僕の中で不愉快な気分にさせた。
魚が陸にあがってくるなんて、と馬鹿にされた気分になったからだ。
「肩、離していただいても…」
いまだ離れない手に対してそう続けようとしたが男は僕の腰辺りをぐっと力強く押した。
「!?なにするんです!」
『ここ。この位置に腰を意識させて…そうそう。両足は少し開いて重心を2本の足にかけてみて』
「え?…」
男はそう指示しながら腰や足の幅を自身の足で広げるように間に割って入ってくる。
頭の中は困惑しているのに反して男の言う体制は、立ちやすく水中の中とは比べ重く感じていた身体が少し軽く感じた。
『うんうん。いい感じ。あんた、体幹しっかりしてるからすぐ慣れそうだね』
「…どうして立ち方を教えてくれたんですか?」
何の対価も無くなぜ?そもそも寮も違うのに。
そんな疑問が脳裏に過った。
『誰かを助けるのに理由なんかいる?』
さも当然かのように片眉を下げる顔。
同時に黒い耳も垂れている。
「…貴方、お人好しですね」
『はは…ま。しいて理由をあげるなら人魚が陸に慣れるのには時間がかかるって知り合いから聞いたからってだけだよ』
「この借りはいつかお返しします」
『あんたそういうタイプか』
「あんたではありません。僕の名前はアズール。アズール・アーシェングロット」
あんた、あんたと呼ばれるのが嫌でそう返した。
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作者名:消毒液 | 作成日時:2020年8月4日 7時