その感情の名前は 3 ページ12
『痛いこと、する？』
少し苦しそうな声に我に返った。
パッと慌てて手を離せば反動でAの身体が後ろに下がり先程買ったピアスも揺れている。
Aは残念そうな顔で首を撫でている。
「すみません…僕は…」
なんて事を。
Aがいなくなってしまえば生きていけないのは僕だけじゃない。
それなのにAを絞めてしまおうなんて無意識に伸ばしてしまった手に罪悪感が残る。
あの一瞬だけAを独り占めしたい欲望と自らの手で絞めてしまいたい気持ちで頭がいっぱいになった。
嫌な汗が流れる。
『あ！フロイドだ！』
そう言ってAが大きく手を振る先には制服のまま走ってくる片割れの姿があった。
どうやら学校からここまで走ってきたようだ。
呼吸も乱さず僕達の前に来たかと思えばすぐにAに巻きついている。
簡単にそれができるフロイドがたまに羨ましく思う。
「ジェイドずりぃ！！俺も買い出し行きたかったのにさ！！」
「…フロイドが呼び出されてるので買い出しが遅れるとアズールが」
「アズールの奴〜！！今度は俺と行こう〜A」
『うん！陸って色んなお店あるから飽きないね〜』
Aはそう言ってフロイドに笑いかけていた。
僕がした事なんて気にもしていない様だ。
フロイドはAのピアスにすぐに気が付き指先で揺れを遊ぶように弄る。
「新しいピアスじゃん。Aセンスいいね〜」
『でしょ！もっと褒めたまえ！』
「うわぁ〜調子乗ってる〜」
Aはフロイドの言葉に気分が良くなったのかとても嬉しそうだった。僕やアズールだったらこうはいかない。
フロイドとAは根本的に似ているせいなのかお互いが尊重し合ってるようにみえる。
だからたまに…とても羨ましく思う。
3人での帰り道、フロイドがふと横に来て静かに口を開いた。
「ジェイド。抜け駆けは許さねえから」
「なんの事やら」
「しらばっくれるとか、ウケる〜」
きっとさっきの様子を見ていたのだろう。
フロイドもまたAを必要としAをこの手で絞めてしまいたいと考えている。
双子なのでそこまで分かってしまうのだから困ったものだ。
ただ、僕とは違って行動する前に止まることを知っていた。
Aを失う事がどれ程、自分にとってマイナスになるのかよく理解しているからだ。
もしくは、それ以上の感情がフロイドの中にあるせいなのか。
その感情の名前を僕はまだフロイドに教えてやらない。
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作者名：消毒液 | 作成日時：2020年7月12日 5時
