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「・・・ええっと」
「ん？」
「…今、なんて言いました？」
「一緒に寝てあげようかって言ったけど？」
どうやら聞き間違いではなかった。空耳でもなかった。
出来ればそうであってほしかった気持ちは見事に砕けた。
というか何でそういう言葉が出てくる展開になった？
「寝ません！何でですか！？」
酔っぱらい？この人酔っぱらってる？
でも全然酔っぱらった素振り見せてなかったような・・・
「だってアンタさ、タクシーの中でめちゃくちゃ泣いてたよ？運転手さんに俺が泣かせてるって勘違いされそうなくらい」
「え？」
・・・泣いてた？
心地よいと感じた、微かに残る夢の糸を手繰り寄せる。
ガチャッ、とオートロックの鍵を回し
ウィーン、と開くドア。
笑い合ってるのに、何故か哀しい色が見える。
「憶えてないんだ？」
エントランスを潜ると、二宮さんは分かったような顔して
「ホントに好きだったんだね、元カレ」
手慣れた手つきで、タバコに火をつけた。
哀しい色を、塗り替えた記憶。
「好きって繰り返して、ずっと泣いてた」
糸の先に、見えたあの日。
エレベーターを待つ時間が、恐ろしいほど長く感じた。
「てか、お酒弱いのによくそんなに飲めたよね昨日」
「迷惑かけて、すみません」
頭を下げてゆっくりと上げると、フーと吐いた煙が私にかかる。
忘れた、昨日で全部忘れたはず。
だけど、また思い出して、知らぬ間に零れた涙。
「忘れたいんでしょ？」
冷たい涙を流す頬に触れたその指は、ドキドキするほど、熱かった。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2017年12月22日 18時
