７５：『君が好き』 ページ35
結局、酒が完璧に抜けたのは夜になってからで。
一世一代の告白をするのに、二日酔いとかありえねぇし。
「にのみぃ、ガンバ！」
ニカッて笑って俺を送り出してくれた。
期待と不安が入り混じった中…
いや、ほとんど不安だな…
車を走らせた。
タイミングよくオーディオからは、『君が好き』が流れてきて。
やっぱり今の俺の気持ちをドスレートに表現してて。
信号待ちで見えた…東京の空気で霞んだ月。
山の中でAを抱きしめながら『彼氏にして』と言った時に…
Aの肩越しに見えた月はもっと澄んでて綺麗だった。
まるで俺の心を表してる様で…。
コインパーキングに車を停めて、Aんちまで向かう。
Aんちのマンションに向かう最後の角を曲がると、暗闇の中に煌々と光る自販機が目に入り、缶コーヒーを二本買ってみたり。
あぁ…そう言やぁ…Aは缶コーヒー飲まないんだった。
ブラックもあるのに『甘くてイヤ』って…。
ナントカフラペチーノのが断然甘いのにな。
Aの理屈だとあれはコーヒーじゃなくて、スイーツなんだそうだ。
タイミングが俺を味方してくれてる様に、丁度住人がいてオートロックをすり抜けた。
エレベーターを降りてAの部屋の前に立って三回深呼吸をして、震える手でインターホンを押した。
出る気配も、部屋の向こうにも気配がなくて…。
背中をドアにつけポケットから携帯を取り出した。
ホームボタンを押しても反応しない携帯は、どうやらバッテリー切れらしくて…。
やっぱりタイミング悪い…。
大きくため息をついたら大袈裟に響いて。
どこ行った？
トオルと出かけた？
なんて一瞬頭をよぎったけど、
『自分の惚れてる女くらい信じてやんなよ』って相葉さんの声。
買い物かもしれないしな。
待ってみよう。
ドアに寄りかかりAを待ってみるけど、携帯もない事で時間もわからなくて。
とりあえず明日出直すか…とマンションを後にする。
後ろを振り返ると、Aの部屋は真っ暗で、理由はわからないけど、なんだかすごく寂しさがこみ上げてきて、足早にそこを後にする。
Aんちから３０分の道のりを、なんとも表現しがたい…
感じた事のない感情と切なさで押し潰されそうな胸の痛みを抱えながら運転して。
思わずその痛みで泣きそうになって…
そんな俺の涙で潤んでぼやけた視界に見えたのは…
好きで…好きで…
会いたかった…
膝を抱えて蹲るAの姿。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2014年2月20日 6時
