カナシ・カハユシ・イトシ ページ7
「戦争で一番儲かるのはどこだと思う？」
「さあ。オレ、頭悪いから分かんなーい」
よく言うよ、と壮年の男は鼻で笑った。彼は216地区の議員――革命連合が成立した日、締結の場にいた者だ。216地区の参加条件は大まかに以下の通り。一、216地区の物資を義勇軍ならびに連合へ提供する。一、連合は、216地区にある裏図書館を戦場としない。
「商人だよ。売るのは武器でも情報でも食料でも何でもいい。戦場にさえならなければ、戦争というのはビッグビジネスだ。歴史が物語っているだろう？」
だから、と彼は横にいる青年のおとがいへ手をかける。
「君が持ってきてくれた、叡智の門の構造や内部の配置、そしてそこから予測される弱点は大きな商材になったよ、ユウリくん！ ……それだけでなく、拠点となる裏図書館は砲撃、補給路の切断、内部工作……どれに弱いのかまで分かるなんて。まさに君は金を産むガチョウだ」
「えへへー、すごいでしょ？ でも、地図とか用意してくれたのはそっちじゃん？ それがあれば、脆弱性を見抜くなんてチョロいって。所詮、才人でも何でもない人間の設計なんだし」
顎を撫でられた青年、もといユウリはごろごろ、と喉を鳴らす猫のように機嫌よく返事をした。その顔に知性は感じられず、まさに「無能な若者」といった様子だった。
「ああ。あの地図は協会側の――君になら明かしてもいいか。トキ夫妻からの協力だ。『216地区が独立した暁には、あなた方が思う理想の図書館を作ろう』といえばイチコロだったね」
今は何か用があるとかで席を外しているが、と彼は付け足すように言う。
すごーい、と甘ったるい声でユウリは合いの手を入れる。やっぱりこうして正解だった。だって、自分の身が一番可愛いんだもの。自分で考えず、とにかく強い人にしたがって、守られるに限る。何で強そうなオオカミが絶滅して可愛いチワワが生き残ったんだと思う？ 可愛いからだよ。
でもぉ、とユウリは少し不満げな声を出した。
「あんまりその人たちばっかり褒めないでよ。オレもきちんと有能だったでしょう？」
ああもちろんさ、と彼は子犬を褒めるような口調で返した。
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