叡智の門は開かれない_2 (ページ6)

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なんていうのは、全部言い訳で。
　ただ、体が勝手に動いただけだ。
違う。もっと正しく言うなら、「後から理屈付けができそうな体が勝手に動かせそうな機会」が来たから、これ幸いと勝手に体を動かしたのだ。――ずっとずっと、心のどこかで憧れていた。背中を見るだけではなくて、あのように駆けてみたい、と思っていた。
ほらやっぱりこんなの馬鹿がやることだ、と忌々し気に彼は舌打ちをする。その場の衝動に身を委ねて何になる？目の前のたった一人を救えても、大局で見れば大損。計画性。正確性。再現可能性。そんな言葉とは無縁の行動。
けれど、いつもは呆然と見送るしかない時間の流れを、初めて追い越した気がした。生きている、ここに在るのが自分でなくてはならない理由がある、と体で分かった気がした。
しかしそれが心地いいというわけではない。むしろ不快だ。気持ち悪い。何がいいんだこんなの。彼は心の中で次々に、先に行った背中へ向けて毒づく。
何にせよ、これから先もう退くことはできない。踏み出してしまった。なら、もう後は行けるところまで進むだけ。
そうすることしか、彼は知らない。

カナシ・カハユシ・イトシ→←＊