終_人生が一度きりであることへの抗議 ページ24
ぼやけた視界。腹部と肩の痛み。こちら側に意識を取り戻したアキノシオを迎えたものはそれだった。昇華隊に辞表を叩きつけ、反政府側として戦争に参加し、そこで怪我をして命からがらここまでどうにか逃げてきて――。そこは、がらんどうになった大きな建物だった。その二階まで上がって来たところで限界が来たのだった。
さて、ここまで救助がくるものか。それとも敵が先か。どちらにしろ、降伏すればいいことだ、と嘆息する。
『超えろ』
愚かな姉との約束はこれで十分に果たしたはずだ。――別にいいことなんて何もなかった。傷つける。殺す。どっち側にいようとやることは同じだ。いったいこれで何が変わるというのか。――少しだけ。ほんの少しだけ。姉の言葉を信じて戦っているときは、まるで面白くて仕方がない小説のページを繰っているときの気分になった。もちろん、それほど面白い小説なんて、キナが作った物以外にはないのだが。
しかしそれがこのざまだ。さあ次は、と息巻いてめくったページに「完」と脈絡なく書かれていた時の気分だった。もちろん最悪だ。読者は飽きたからという理由で本を読むのを辞めるように、作者は飽きたからという理由で書くのをやめる。読者が、どれほど続きを心待ちにしているかを知らないで。
眩しい、と思ったらちょうど朝日が昇ってくる時間帯だったようだ。そしてそれを背景に――鳥？ シオは腹を押さえながらゆっくりと立ち上がった。白い、宙を舞う「何か」が見えたのだ。この辺りには多くの廃建築物が並んでいる。建物と建物の隙間から光が漏れていた。
綺麗だ、とシオは思った。何よりも明るく、静かで、情熱的で。美しかった。彼は、今まで朝日というものを、キナが小説で描写した「朝日」と重ねてしか見ていなかった。今、それを忘れて――透明な朝日を見るのは、いったい何年ぶりだろうか。言い換えるならば、彼女が朝日を描いてから、いったい何回朝日が昇ったのだろうか。そして彼は、彼女のいない朝日を、これから先何度見るのだろうか。姉のいない時間は、黙っていても、何もしていなくてもただ過ぎ去り、そうしてまた「アキノキナのいない今日」を飽きることなく連れてくる。
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