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奴が視界に入った瞬間、カッと目の前が赤くなった。自分の見る本当の世界とはこちらだったのだ、と思えるくらいに。
燃料は十分にある。十数年分の怒り。設備は十分に整っている。この日のために整えた。昇華隊の分裂、鴇夫妻の裏切り、それを発端にした第83裏図書館の陥落、裏図書館が勝負を仕掛けるのに十分な理由。他の組織がそれに乗っかる十分な勝機。そこまで来れば、政府も黙っているわけにはいかない。体裁だけでなく、戦いは、血は、世界に充満した鬱屈した空気を吹き飛ばすのにちょうどいい。連合の序盤の快勝。政府軍を引きずり出す口実になる。そしてそれは放っておけば長くは続かない。政府は欲を出し猶の事深追いをするだろう。あまりに連合が粘り過ぎれば216地区をそそのかして補給路を断てばいい。それは、後から216地区を糾弾する理由としても使えるから。その間に義勇軍のコマを進めさせる。代わりに政府の、一部の者にだけ協会の心臓を見せる。そうして、互いにどちらが先に仕留めるかの勝負にする。難しくはなかった。ただ、目先の利益を、強烈な刺激を与えてやればいいだけだ。それで、人間は容易く動く。
だから、後は点火するだけだったのだ。
「……っ、カイ、さん……？！」
「黙れ！ 一言だってお前に許してなるものか。殺す、俺は、お前を、殺す！」
最初の蹴りは武器によって塞がれた。何も知らない、と言った様子の――彼に相対したトーマンが、ますます炎に油を注ぐ。
「待ってください、聞いて、聞いてください。俺の話を」
「お前が、妹の言葉を奪ったお前が聞けとは笑わせるな！ 死人に口なしとはこのことか？」
一度だって決定打が入らないのがもどかしい。苛立たし気に動くカイの動きはますます加速するが、反対に精度は落ちていく。それとは対照的にトーマンの声は感情的でありつつも、動きは冷静そのものだった。
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