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「俺が先に出る」
野外へ続く出口は目前、というところでヒビキが押しのけるようにして前へ出た。はあ、と思わず言いそうになったがそれより喉の痛みが勝った。そう。それでいい。余計なことは言わなくていいんだ。痛みとは別種のざらつきがまた昇ってくる。飲み下す。
壁が消え、視界が広がる。はた、と目が合った。政府軍。人数はそう多くないしこちらには気づいていない。――一名、気づいた。声を上げようと口を開く。鞭に手をかける。それを見て銃を構える。
しかし、それより先に静寂が訪れた。静寂、というにはあまりに徹底的すぎる、全てが塗りつぶされていくような、意味も何もない、単純にして強力な無音だった。
何秒。
一番状況を把握しているのは、当然この局面を引き起こした日芽だった。あと何秒私の喉はたえられるだろうか。問の設定を間違えた、と立て直す。
あと何秒あれば離れられるだろうか？
出口とヒビキの隙間を抜け、また日芽が先に立つ。袖を引く。もう片方の拳は握りしめたまま。振り返らない。何も振り返らない。振り返ってしまったら終わりだ。全部が惜しくなってしまう。目の前の命より大事なものなんてないはずなのに。生きていることより大事なことなんてないはずなのに。それでいい。これでいい。声は出ないけど言い聞かせるように頭の中で繰り返す。
「――お前！」
後ろから肩を強く掴まれた。響いた、何の変哲もない声に驚く。自分の右手を確かめる。確かにまだ、握っている。それでも、静寂が解かれているのは事実だった。なんで。声が出た。彼女もまた、彼の能力を知らなかった。
「ソレの代償だろ、声！ バカが」
その声に続いて、サイレンが鳴る。やけに高い音だった。はたと世界中が再び色づくように、輪郭がはっきりとなぞられていくように。一度無音によって閉ざされていた世界が再び拓かれていくように。
そんな一連の音の連鎖の、皮切りになったのは。
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