叡智の門は開かれない_2 (ページ11)

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この場に限って運命と呼ぶページ11

赤子はようやく泣き止んだ。きょとん、として周囲へ視線を迷わせた後、不安そうに母に縋り付いて胸に顔を埋める。
「すみません、すみません巻き込んでしまって！もしあなたがいなければ、私たちどうなっていたことか」
　目の前にあった拳が開かれた拍子、母の口から再び声が戻る。いや、掠れた声に一つ咳ばらいをしてから日芽は返す。
「声を出すんは赤ちゃんの仕事でしょ？その仕事邪魔しちゃうこの状況が悪いんよ。お母さんもごめんなさい、こんなことに巻き込んでしもうて」
　先に立ち上がり、先ほどまで進んでいた方向とは別の道に行くよう促した。これまで使っていた避難路は、逆に第28裏図書館へ向かう政府軍の進路になっている。彼女は、もう少しで鉢合わせそうになっていたこの親子を連れて一旦裏図書館まで戻っていた。もうほとんど人の気配はない。
「――いえ、それは。私、教育場の頃はすごく物語が好きだったんです。それで、自分の子供に絵本を読み聞かせたいって思ってたって――やっと、思い出せたんですから」
「ええ！じゃあ頑張らんといかんねえ。ま、大船に乗ったつもりでおってください」
　しかしもう廃墟同然の拠点へあれほどの戦力向けるか、と先ほど見かけた政府軍を彼女は思い返す。――ようやく、自分が何を敵として戦っていたのか、戦っているのか分かった気がした。普段はそんなこと考える暇なく、ただ生きることだけを考えていたから。
　とはいえ、どれだけ多くてもぶつからなければ、視界に入らなければいないも同然。逃げればいいだけだ。選択できるルートは二つ。短いが険しく迷う可能性のある道か、安全だが長い道か。

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