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――追いついた。
「来るな！」
ライムンドは初めて彼を正面から見た。彼の手に握られているのは、小型の火炎放射器。どこかで拾ったか、奪ったか。そして、その背後にあるのは、一つの書架だった。その後ろにある研究室に入りきらず廊下に放置してあったのだろう。もうこの部屋の主は避難しただろうか。
その男の目は、明らかに正気ではなかった。何かに取り憑かれた目。何ということはない。統一テストを目前に控えた少年たちによくみられる目だ。もっとも、その男は既に十代の少年ではない。もう、その年から倍は生きていそうに見えた。
囚われている、とライムンドは思った。かといって、くだらない、とそれを切り捨てようとも思えなかった。過去は帰って来ない。変えられない。だったら未来を変えようと前向きになった方がいい。バカだと思う。未来を想像する材料は、他でもない自分の過去なのだ。でも、だからこそ。
「おバカ！ そこにあるのは何億人分の『過去』だと思ってんの？！ あんたが軽々しく手ぇ出していいもんじゃないの。分かる？」
「うるさいうるさいうるさい！ お前、昇華隊員だってそうだろうが。お前らだって燃やしてきたんだろうが。お前だけに言われる筋合いはない！」
「それはまあそうね！ ちょっと反論できないわ！ でもねえ、覚悟が違うのよ、覚悟が！」
「黙れ！ それ以上進んだら燃やす、燃やしてやるからな！」
ゆらり、と危うく彼の体が書架の方へ向いた。止められるか？ いや、もう彼を止めるにはそれこそ殺すことでしか不可能だろう。では黙って本が燃やされるのを眺めていてもよいものか。それは昇華隊員として許されないし、何より自分自身が許せない。
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