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上半身ごと放るようにしてユウリは手を放した。倒れた男はせき込みながら彼を見上げる。
「ただじゃ帰さんぞ。ここは私の邸だ」
「ほんと馬鹿だね、君。何の準備もなくこんなことするわけないじゃんか。この時点まで誰も来ないこと、不思議に思わないの？」
「協会か？！ 政府か？！」
「ぶっぶー。武力を持ってるのはその二つだけじゃないでしょ。君だって持ってるじゃん。それと同じように、私兵を持ってる人物なんかそれなりにいる。そっちに頭回らないの？」
苛立ったようにユウリは脇にあった机を蹴り飛ばした。載っていた花瓶が倒れ、こぼれた水が絨毯へ染みを作っていく。
「しかし、この戦いに関与しているのは政府と協会と我々しか――」
「あー。君もそういう戦いにしか見えてないタイプの人か」
ユウリは床に落ちた花弁を踏みつけ、擦り付けるように左右に靴を動かした。
「ごめん。今のはこっちの話。そういうふうにしか見えてない奴が大半だから気にしなくていいと思う。……ま、どっちにしろ君はもう用済みだよ。お前はこのザマ、外は私兵が制圧済み。お前の処遇は俺に任されてるんだけど、どうしようかなあ。オレよりバカな――可愛いやつがいるの、むかつく」
「私兵というのは、いったいどの――」
言うわけないだろバーカ。
そう口走ろうとして、はっとユウリは口を噤んだ。馬鹿な子ほど可愛い。だからこの場で一番可愛いのはコイツ。頼んでもないことをべらべら喋るし、調子に乗るし、人のことをしっかり測らないし。「あの人」とは大違いだ。
狼が何で絶滅して、チワワが何で生き残ったか分かる？ 強さじゃない。賢さじゃない。可愛さじゃない。
従うべき相手をきちんと選んだからだよ。
「オレ、可愛くなりたいしお前の真似してみることにするね！ ……お前の邸を制圧したのは、モール家の私兵さ。ま、オレもそれ以上のことは知らないけどね〜！」
だって、駒に知識はいらない。情報はいらない。命令されたことをしっかりやる力があれば殺されない。それで、たまにポカやるくらいの愛嬌があるのが――
いっちばん、かわいい。
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