甘い誕生日 (JUMP短編集)

Happy Birthday Keito！(2) ページ8

「あの。 ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど個人的なものは受け取れないんです。」




テレビ局の廊下でメイク室に向かってる時に空き会議室から聞き慣れた声が聞こえる。



その声の主が彼氏の圭人くんだって顔を見なくても分かった。





仕事でこうやってテレビ局に入りタレントさんのヘアメイクを担当している私とアイドルの彼。



時々、今みたいにテレビ局やスタジオで声を聞いたりすれ違ったりする。




もちろん、二人の仲は公にしてないから会っても挨拶するだけ。




そんな彼と前にしていた会話を思い出す。



「あれ？ 4/1ってA同じテレビ局で仕事なの？」


後ろから私を柔らかく抱きしめスケジュール帳を一緒に眺めていた圭人くん。


彼の低いけど温かくて優しい声が耳元で聞こえる。



「うん。 私も違う収録のヘアメイクで入ってて夕方には終わると思うの。」



開いていた手帳をぱたんと閉じて、後ろから回ってきた彼の手に指を絡めて両手でぎゅっと握る。


その手を彼も握り返してくれる。



「誕生日の日にAが同じ空間に居るならいつもより頑張るね。

仕事終わったら連絡するから。」




私の肩に顔を埋めてこっちまで頑張ろうと思う言葉をくれる圭人くん。




そんな彼との幸せな会話を思い出して仕事中なのを忘れて頬が緩んでしまう。





だけど、今聞いた彼の声色は少し困ったような声。




あまり良くないこととは分かってるけど開いた扉からつい会議室の中を覗いてしまう。





すると私も何回か一緒に仕事をしたことがあるスタイリストさんが紙袋をずいっと彼の前に出している。




それを受け取らない圭人くん。





彼は入口に背を向けててその表情は分からないがさっきの声色からとても困っていることが分かる。




「あの。受け取ってもらえるだけでいいんです。

何にも期待とかしてないんで。

ただ、私が岡本さんの誕生日を勝手にお祝いしたいだけなんです。」



彼女が可愛らしい声で圭人くんが断ったのにまだ紙袋を下げない。



声と一緒でスタイリストさんになるよりも芸能人になった方がいいんじゃないかっていうくらい顔も可愛いその子。



そんな子からの分かりやすいアプローチ現場に遭遇してしまった。



『受け取らないでほしい』



嫉妬でいっぱいの醜い心の声が出てくる。

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