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夜。
何度目かもわからない寝返りも、私を夢の中へ誘ってくれることは無い。
細く開けた窓から気持ちのいい風が入って来る。
晴れた夜空には星が光っていて、今にも遠いどこかへ連れて行ってくれそうに見えるのに。
コン、コンッ
「えっ…」
こんな時間に、ノック？
俄には信じられないけど、確かに聞こえた。
咄嗟に脳裏に浮かんだのは、昼間のジェシーさんの姿だった。
もしかしたら、彼も寝付けないのかもしれない。
とは言え北斗さんに続き、紫耀くんにも釘をさされたばかりなのは事実だ。
備え付けのベッドから恐る恐る抜け出すと、なるべく音を立てないよう気をつけてドアを開ける。
そこに立っていたのは、ジェシーさんでは無かった。
「北斗さん…」
いつもの執事服では無く、ラフな感じの私服にメガネ。足元には、大きなカバンが置いてある。
「こんな時間に、相手も確認しないでドアを開けるな。」
「えぇーーー！？！？
ノックされたから出たのにぃーーー！？！？」
まさかの説教。
それこそ、「こんな時間に」と言い返したくなってしまう…
怪訝そうな顔で北斗さんを見上げる私。
けれど彼はいつもの鉄仮面のまま、薄く潤った唇をわずかに開いた。
「母が亡くなった。今から俺はここを出る。
ジェシーには、置き手紙してあるから。」
「えっ！？
い、今からですか…！？」
「ああ。」
「お、お葬式なんかはどうするんですか！？
身寄りは、北斗さんしかいないんじゃ…！」
「…遺言なんだ、母からの。
細々した事務手続きは病院のソーシャルワーカーを通じて自治体や弁護士に依頼済み。
火葬のあとは、父と同じ墓に入れてもらえる手筈になってるって。
だから…とにかく、すぐに遠くへ行けって。」
「…遠くに？」
「ここではない何処かで、自分の生き方を見つけて欲しいって。」
「………自分の生き方…」
「あなたにも色々世話になった。
いや…世話した方が遥かに多いけど……でもまぁ、楽しかった。」
いつもは鋭い目をやんわりと細めて、穏やかに微笑む北斗さん。
彼は今夜、自由へ向かって旅立つのだ。
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作者名：マヨ
| 作成日時：2022年7月20日 1時
