29 ページ29
.
「断れませんよね。
知ってます。俺もです。
けどだからって、�犢�せになれない″と決まったわけでも無いんじゃないかと思ってます。
俺は基本的には人見知りだけど、松村の家を好きになってもらえるよう、誠心誠意頑張ります。」
2人きりで残されたあと、北斗さんは微妙に目を逸らしながら、私にそんなことを言った。
低く澄んだ声が耳に心地良い。
きっとオーダーメイドなのだろう、長身痩躯の彼にピタリと合っている漆黒のスーツ姿にはちょっと不釣り合いな、どこか照れたような口調だった。
「…不束者ですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。」
座布団から少し下がって、三つ指をつきながら深々と頭を下げる。
絹の擦れる音がする。
去年、二十歳の誕生日を迎えるに当たって大我くんが贈ってくれた京友禅。
満開の桜のような薄桃色が、ほんの少し気恥ずかしかった。
この3年、彼は私のすべてだった。
私は彼の、何者でも無いだろうけど。
何者でも無いまま、目の前のこの人のところへお嫁に行く。
それでいい。
法的なものとは言え姉弟となれば、家を出たとてきっとまた会えることもあるだろう。
もうこれからは、私は北斗さんの言うことに従わなくてはならない。
松村のお家のしきたりを覚えなければならない。
ここでは免除されていたお料理は、それまで父と2人暮らしだったので基礎ぐらいは身についている。
畑で野菜を作っていたので、茶畑の手伝いもできるかもしれない。
そんなことを言ったら、北斗さんは意外そうに目を見開いていた。
「じゃあ、今度俺が案内しますよ。
晴れた日の棚田は空が広くて、遠くの街まで見下ろせて、絶景なんです。」
微笑む北斗さんは、きっと良い人なんだろう。
柔らかく波打つ黒髪が揺れる。
私は、この人の子どもを産むんだな。
パパに似たら、きっと美形だろう。
まだ実感は無いものの、薄ぼんやりと形が浮き上がって来たように思える私の未来。
「大事にします。俺の、可能な限り。」
「…ありがとうございます。
私もそうします。」
お互い安心したように目を合わせ、フッ…と笑いながら息をつく。
その瞬間
障子の開けられた丸窓の向こうから
色の無い目をこちらへ向けたまま立ち尽くす、
大我くんの姿が見えた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1854人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SixTones」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
マヨ(プロフ) - びたーさん» わぁ、ありがとうございます！！前作はこっそり書いたつもりが速攻バレてしまい、頭を抱えながら完結しましたwwこちらは開き直ってワンモアソングまで出しておりますwwどちらも大好きと言って頂けて、とっても嬉しいです(^^) (2022年2月8日 13時) (
レス) id: e79016e87d (このIDを非表示/違反報告)
びたー(プロフ) - 初めまして。前作と合わせて読ませて頂きました。どの作品も最高です！マヨさんのページを見ていて他Gの作品を書いていた事、それが私が大好きな方だったことを知って感動してコメントしてます笑どの時のお話も大好きです！もしまた次のお話あったら楽しみにしてます！ (2022年2月7日 19時) (レス) id: 2487ef4d88 (このIDを非表示/違反報告)
マヨ(プロフ) - ジョシーさん» ありがとうございます（笑）時代はYouTubeや！！このお話以外は「Figure」と言うほっくんメインのお話しか無いんで読み漁り甲斐無いと思うんですが、よかったら暇潰しに覗いてください(^◇^;) (2022年2月7日 18時) (レス) id: e79016e87d (このIDを非表示/違反報告)
ジョシー(プロフ) - YouTubeで爆笑しました笑マヨさんの小説面白そうなので読みあさりたいと思います！🤣 (2022年2月7日 1時) (レス) @page50 id: 6674c8dd0f (このIDを非表示/違反報告)
マヨ(プロフ) - ちーたゆさん» はじめまして！コメントありがとうございます！たくさんのお話読んで頂き感謝です😭ほっくんはともかく、今回のきょもは私の意志で書いたのでヒヤヒヤしてたんですが、今のところクレームは届いておりません（笑）「大好き」もらえて、私も嬉しさ爆発です！！ (2022年2月6日 13時) (レス) id: e79016e87d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：マヨ
| 作成日時：2022年1月15日 3時
