びんとろシェアハウス！！

話は戻って ページ20

金木犀の香りが辺りを漂う初秋の深山荘で、オーナー代理の深山Aは玄関口で新たな来訪者と対峙していた。



「え……っと。」


Aは昨日の夜に読み返したメッセージを思い起こしていた。たしかに花江と先生が来るという連絡のはずだ。


車のエンジン音もいつもの先生の車だった。そうでもなければインターホンを確認せずに扉を開けたりなどしない。



しかし、いまAの目の前でニコニコと微妙に人の悪そうな笑みを浮かべている男性はどう見ても花江でも先生でもない。




？？？「君が噂のAちゃん？」



名前を言い当てられ、Aは面食らった。




「……失礼ですが、どちら様ですか？」



？？？「あれ、花ちゃんから聞いてない？おっかしいなー言っとくって言ってたのに。」



この時点で見知らぬ男性への警戒度は最大限だ。この声はうっすらと聞き覚えのある気がするがなぜだろうか。




Aの手が相手に悟られぬよう警備会社への通報ボタンへと動く。



それに気付いてか男性は慌てたようにそれを止めた。




？？？「ごめんなさいごめんなさい通報はちょっと待ってちゃんと自己紹介するから待って！花ちゃんの友達の正一です！よく一緒にゲームもしてます！花ちゃんたちとお邪魔しに来ました！」




しょういち、ショウイチ、正一……と変換がされてゆき、花江夏樹チャンネルによく登場する花江の学生時代からの友人である正一さんだと思い至った。




「……あ、あぁ……！正一さん！正一さんってあの！あぁ……！」




なるほど、それなら合点がいくと言えなくもない。確かに正一さんなら聞き覚えのある声で顔を知らない男性だ。



しかしAの手は先ほどまでと変わらず何か変な行動をしたら即刻通報できる位置にあったし、自称正一さんを見る目には鋭さがあった。



正一「ちょっと警戒させすぎちゃったかな……いまそこに隠れてる花ちゃんたち連れてくるから。」





扉の前を自称正一さんが去ったところでAは自分の迂闊さを悔いた。



キーチェーンをしているとはいえ今後はインターホンを確認せずに扉を開けたりはしない。

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