08.コーヒーの苦さより ページ8
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一晩夢に潜って、目覚めた日曜日。
冷静になった頭で国民的アイドルがそんな危険な綱渡りをするとは考えられない。
という結論に至った。
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彼だってサービス業だ。週刊誌に撮られたらデメリットしかないし
…そもそも私みたいな落ちぶれた女は好きにならないだろう。
じゃあ、なんで五日間も顔を合わせたのか。
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ーーーー…それは、もう「偶然と偶然が重なりすぎた偶然」と考えるしか手立てはなかった。
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「寝すぎた…」
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壁にかけられてる時計を見ればもう時刻は朝、というか昼。
気だるい身体を抱きながらテレビをつけて、この一人暮らしには広すぎる部屋に無機質な笑い声が響き渡る。
コーヒーを淹れようと寝ぼけ眼でふらふらとオープンキッチンへと向かおうとすると
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「……」
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聞き慣れた声が後ろからした気がして、それは勘違いじゃなくて。
誠くんが買ってくれた大きすぎるテレビに映っていたのは国民的アイドルで。
どうやら彼は日曜日の昼過ぎから単独番組を持っているらしく上手い具合に番組を回していた。どうやら司会らしい。
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(…こうして見ると、芸能人なんだけど。)
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綺麗なお洋服に身を包んで同じように着飾っている芸能人たちと並んで
整った顔をくしゃくしゃにさせて笑ってる姿を見ると、確かに彼は芸能人。
でもエレベーターで毎回出会う彼はーーー…、グッシャの髪の毛、ヨレヨレの服、そして薄ら笑い。
芸能人のオーラが一ミリも感じられない。
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もしかして、あれはニセモノなんじゃ？
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そんなはずあるか！と自分自身にツッコミを入れてコーヒーを淹れ、ボケーっとしながらなんとなくその番組を三十分見てから
私は出かける準備を始めた。
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日曜日。午後六時。
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誠『会えないかな。麻里が会食で今夜は空いてるんだ。』
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「YES」しか返答を持ち合わせていない。
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有無を言わさない、誠くんのお誘いは。
結局私自身が、誠くんに捨てられるのが怖いんだ。「NO」と言って「ならいいや」と捨てられるのが。
いつか来るお別れが怖くて、誠くんに捧げた二年間が泡のように消えるのが怖くて
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私は今日も、底なしの沼へ足を進めてゆく。
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